コラム「研究員のココロ」
連結標準原価を活用したグループ管理会計システム
2004年03月29日 斉藤岳
1.連結管理会計の現状
主力製品Aの売上を30億円増加させた場合のグループ粗利益の増加額を考えてみましょう。製品Aの原材料購入、製造および販売をグループ内の1社で行なっている場合は、「製品Aの売上(30億円)-製品Aの売上原価」となります。
しかし、子会社αで原材料を一次加工した後、親会社が製品Aを最終製品に仕上げている場合は単純ではありません。この場合、子会社αと親会社の売上と売上原価を合算した後、子会社αと親会社間の内部取引を考慮し、内部売上・売上原価の消去と未実現利益の消去が必要となります。
この2つの消去処理のために必要な変数は、子会社αの親会社への内部売上(1)、売上原価(2)と親会社の製品Aのグループ外売上(3)、売上原価(4)と親会社の子会社αから仕入れた在庫に含まれる未実現利益(5)の計5つです。この5つの変数を集計した後、消去処理を行なうため、実務の上では非常に煩雑です。
このように連結ベースの製品市場戦略を考察する場合、これまでのやり方では製品の売上増がグループのP/L・B/Sへ与えるインパクトを容易に把握できません。また、消去処理を簡略化しても、連結ベースの実績把握の早期化には限界があります。
2.連結標準原価とは
連結標準原価とは、グループ内の事業単位を1つの企業体とみなした場合の標準原価です。会計的にはグループ内の事業単位において未実現利益を含まない最終製品の標準原価を指します。これを用いることにより、連結ベースの売上原価と棚卸資産をダイレクトに算出することができます。
◇売上原価(連結)=連結標準原価×グループ外への販売数量
◇棚卸資産(連結)=連結標準原価×グループ内の在庫数量
そもそも連結管理会計とはグループ内の事業単位をあたかも1つの企業体として捉えることが前提となっており、連結標準原価という概念は連結ベースで事業をマネジメントする上では必要不可欠なコンセプトです。例えば、連結ベースでの製品市場戦略の策定やそのトレース、連結事業予算管理、連結ベースでの原価マネジメントなどの局面で連結標準原価を活用することになります。
しかし、現状の連結管理会計システムは単体の決算数値を積上げて、内部取引を消去するという、制度連結のロジック(単体思考)で設計されているため、本格的なグループマネジメントの実践が困難になっています。
3.連結標準原価を活用したグループ管理会計システム*
連結標準原価という非常にシンプルな概念を連結管理会計に導入することにより、グループマネジメントのレベルを飛躍的に向上させることができます。
計画策定時においては、計数シミュレーションが容易になり、戦略策定の自由度が増大します。また、連結標準原価を用いることにより、連結予算をダイレクトに策定することが可能となり、従来の単体予算の積上げ方式で行なっていた消去処理が不要になります。
実績把握においては、リアルタイムに近いタイミング(数量情報把握のタイミング)で連結会計情報を把握することができます。また、製品別の連結粗利益による業績変動要因の分析といった、製品レベルの連結会計情報に基づく詳細な経営分析が可能となります。
さらに、連結標準原価の導入と合わせて、グループ各社の原価に関する計画・実績情報をグループ本社に集約することにより、製品別のグループ内のコスト構造分析も可能となり、連結ベースの原価マネジメントを推進することが可能となります。
本格的なグループ経営を推進していくに当って、従来の制度連結のロジックで設計された管理会計システムから連結標準原価を活用したグループ管理会計システムへの変革は不可欠といえます。
*「連結標準原価を活用したグループ管理会計システム」はビジネスモデル特許出願済みです(出願番号:2004-018758)。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。