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コラム「研究員のココロ」

「強い人事部をつくる」<後編>

2004年02月09日 青木昌一


 前回は、人事部の抱える課題について3つの観点からお話した。そこで今回は、今後強い人事部を実現するために何をすればよいのか、3つの施策をご紹介しよう。

4.強い人事部を実現するために

 まず第一に人事異動による活性化である。
 新卒を人事部に配属することは悪いことではない。しかし、できるだけ柔軟性があるうちにその企業のコアになる業務を経験する機会を設けることが理想である。そのうえで人事の適性が高いと判断されるなら人事部へのローテーションを行うのである。そうすることで、開かれた人事部が定着し、社員育成の面からも大きな効果が期待できる。
 あるいは他の部署で活躍している人材を、当然その部署の抵抗は大きいが、それこそ経営判断によって人事部へ異動することにより、人事部の強化を行なうべきである。

 第二によく言われることだが、人事部員は現場にできるだけ足を運べということである。自らが自社のことについて知るという効果はもちろんのこと、社員が人事部をより身近に感じてくれるようになる。慣れないうちは煙たがられることも多いが、次第に現場社員との距離は縮まっていく。感情で会社の施策がゆがめられるようなことはあってはならないが、社員から親近感を得られるか否かということは侮れない。様々な情報がインフォーマルな形でも人事部に届くようになる。それこそがいわゆる「生きた情報」である。そして、その生きた情報を戦略構築に生かすことこそが、人事施策が社員に受け入れられる風土の実現には不可欠である。

 第三に極めて有効な施策として「社員に話を聞く」ということを提案したい。上述の現場に足を運ぶということと重なる部分も多く、どこの企業でも行なわれていて改めて強調する必要があるのかと疑念を持たれるかもしれない。しかし、それはあくまで日々の業務に必要な情報をごく限られた人とやりとりしているというケースを想定してのことではないだろうか。
 ここで提案しているのはできる限り多くの幹部から末端までの社員の話を聞くということである。全社員に対するヒアリングが可能であればそれが最も望ましい。
ヒアリングの内容は様々な工夫が可能である。

 ・仕事の内容やその仕事のなかでの他者との関わり
 ・自身の将来的なビジョン
 ・自部門の業務に求められる能力
 ・上司からのマネジメントの方法と部下のマネジメント
 ・フォーマルな組織とは別のインフォーマルな仕事上のキーマンの有無
 ・次代のリーダー候補 etc.

目的によって集めておきたい項目を尋ねていく形が良い。
 このヒアリングを実施することにより思わぬ課題が浮き彫りになったり、社内の意外な人材の発掘、事業における本当のキーマンなどを知ることができる。人事部員総出でヒアリングを行なえば、日常の業務にプラスして大きな負荷がかかる。ヒアリングに取り組んでいる期間は、話を聞く時間や議事録を作成する時間などで大変な状況になるが、やり終えた段階で得るものが非常に大きい。人事部の仕事では得にくい比較的大きな達成感を味わうことができる。また、なかなか入手できない情報が集まること以外に、社員との距離感が大きく縮まる。人事部員に対する社員の親近感あるいは人事部員もこれまでよく知らなかった社員に対しての親近感が飛躍的に増すのである。
 さらに、忙しいスケジュールの中でヒアリングを遂行することで、日常業務に対して優先順位をつける必要に迫られその結果としてすばやい判断力を養うこともできる。
 その整理の方法として有効なのはヒアリングによって得たデータを組織に関わるものと個人のスキルや役割に関わる部分に分類する方法である。

 組織に関わるデータであれば、
(1)自社の事業ごとにミッション
(2)そのビジネスプロセス
(3)必要要員とその役割
(4)今後の課題 etc.

 個人のスキルや役割に関するデータであれば、
(1)基本情報
(2)コアスキルとそのレベル
(3)将来展望  etc.
をまとめる。
 
 その上でこれらをベースに議論を深めることで、組織の強みや弱み、取るべき施策、組織のあり方、核となる事業にとって必要な人材、福祉システムのあり方など様々な人事戦略の具体的な姿が立体的に見えてくる。人事部として何をなすべきなのかという戦略構築のイメージがはっきりしてくるのである。

 縷々述べてきたが、以上の三点を実践されることで、社内の雰囲気づくり、人事部員個々の能力開発、人事部の基盤整備が実現する。その結果、底力のあるつよい人事部に一歩近づくのである。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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