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コラム「研究員のココロ」

行政サービスの民間開放の促進に向けて (後編)
-地方自治法の一部改正のポイント-

2003年12月22日 小松啓吾


■「指定管理者制度」への期待
 平成15年6月13日に公布された「地方自治法の一部を改正する法律」では、「指定管理者制度」という新たな制度が設けられ、公の施設の管理運営に関する民間活用が弾力的に行えるようになりました。
 前編で述べたように、これまでの地方自治法では「公の施設」に関して、限られた団体への「管理委託」しか行うことができませんでした。これに対して、改正後は地方自治体が指定する「指定管理者」が、「管理委託」よりも一歩進んだ「管理代行」を行うことができるようになっています。

 改正のポイントとしては、以下の点が挙げられます。
 1.条例の制定(指定管理者制度の導入にあたって、指定の手続、管理の基準、業務の具体的範囲など、必要な事項をあらかじめ条例で規定)
 2.指定の方法(1.の条例に従って、指定管理者を議会の議決により指定)
 3.利用料金制(指定管理者が施設の利用料金を自らの収入とすることが可能)
 4.事業報告書の提出(指定管理者は毎年度終了後に報告書を提出)
 5.地方公共団体の長による指示、指定の取消、業務の停止命令(指定管理者に必要な指示を行い、指示に従わないなど、指定を継続することが不適当な場合は、指定の取消または業務の停止を命ずることが可能)

 このため、例えばPFI事業においては、民間事業者が整備した施設をそのまま所有し、利用料金制の導入を含めて管理運営を行うことが可能となります。これにより、民間事業者にとっては管理運営段階における創意工夫の余地が広がり、結果的にコスト面の効率化やサービス水準の向上などが期待できます。また、PFI事業に限らず、既存の公共施設の管理運営についても、指定管理者制度を導入する動きが具体的に出つつあります。

公共施設の管理運営における指定管理者制度の主な導入事例
公共施設の管理運営における指定管理者制度の主な導入事例
資料:各市ウェブサイトの情報をもとに筆者作成


■「性能発注」「複数年契約」「適切なリスク分担」がポイント

 これまで、公共施設の管理運営に関する業務委託では、個別の業務内容を詳細に定めた「仕様書」に基づいて、単年度の契約で行われてきました。このため、業務を委託された民間事業者が優れたノウハウを有していても、仕様書に書かれていない事項については、そのノウハウを発揮しにくいという難点がありました。また、長期間にわたって継続的にサービス水準を高めていく努力を促すという点においても、民間事業者の意欲に依存する面が比較的強く、仕組みとしては必ずしも十分に確立されていませんでした。

 ここでは「性能発注」と呼ばれる方式を導入することが効果的です。これは、最終的な行政サービスの達成水準のみを行政が定め、具体的な業務の手順などについては、指定管理者の創意工夫に委ねるという考え方です。これにより、指定管理者の運営ノウハウを活用して効率化を図ることが可能となります。また、「複数年契約」を導入することにより、例えば施設の修繕計画や職員の雇用形態などについて、より長期的な視野に立って最適化を図ることが可能となります。さらに、コストの増加、第三者への損害賠償、不可抗力といった、施設の管理運営に伴って発生する様々なリスクについては、行政と指定管理者の間で最適な分担を行うことが重要です。実際に、前述の大阪市の事例では、指定管理者の募集に際して、期間内のリスク分担を具体的に定めています。

 これらの方式は、いずれもPFI事業において、民間の創意工夫を引き出すための方策として、特に重要とされているものです。PFI事業は最長30年間という長期間に及ぶため、性能発注、複数年契約、最適なリスク分担が、事業の効率化を図るうえで不可欠となっています。このため、近年は徐々にノウハウが確立されつつあり、既存施設の管理代行についても、ある程度の応用が可能であると考えられます。

■制度の普及に向けた今後の課題

 このように、一見「いいことづくめ」のように思われる指定管理者制度ですが、導入にあたっては慎重な検討が必要です。

 第一に、公共施設の管理運営を民間に委ねることが適切かどうか、という点です。道路や河川、学校のように、個別の法律によって管理主体が制限されている場合は、そもそも民間事業者に管理を代行させることができません。また、施設やサービスの内容によっては、民間ノウハウの活用になじまないというケースも考えられます。

 第二に、サービスを最も効率的・効果的に提供できる民間事業者をいかに選定するか、という点です。指定管理者には、施設の管理運営のコンセプトを的確に把握して運営計画を定め、適切なコストで管理運営を実行することが求められます。また、契約期間が長期にわたる場合は、サービスを安定的に供給するため、企業の信用力も求められる可能性があります。

 第三に、民間が提供する行政サービスの水準を確実に維持・向上できるか、という点です。民間の創意工夫を上手に引き出すことができれば、サービス水準の向上につながりますが、逆に、サービス水準の低下を招くおそれもあります。そこで、民間事業者が業務を確実に実施していて、当初に定めた性能要件をきちんと満たしているか、行政が定期的にチェックを行う必要があります。

 最後に、地域経済への波及効果をどのように見込むか、という点も重要です。指定管理者制度の普及を「行政サービスの民間開放の促進」と見れば、雇用機会の創出など、一定の経済波及効果が期待されます。PFI事業においては、事業規模が非常に大きいために大手企業の寡占が進んでいる面もありますが、既存施設の管理運営については、むしろ、地域密着型のきめ細やかなサービスが求められる可能性が高いと考えられます。

 これらの点に配慮しつつ、今後は地方自治体が所有する公共施設の管理運営について、効率化の可能性を十分に検討することが求められます。行政自らが行うべき業務と、民間に委ねることができる業務を、官民が適切に分担することにより、行政サービスの効率化や高度化を進めていくことが可能となるでしょう。
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