Business & Economic Review 2004年05月号
【REPORT】
アメリカ情報サービス産業の動向
2004年04月25日 星貴子
要約
- アメリカでは、ITバブル崩壊の影響を受けて低迷していたIT産業に復調の兆しがでてきた。もっとも、分野別にみると、IT関連機器製造業が急回復する一方、ソフトウエア開発やアウトソーシングといった情報サービス業は緩やかな回復にとどまっている。今後を展望しても、最大の市場であるアメリカ国内の需要の伸びが緩慢なため、増勢の一段の加速は見込みにくいという見方が少なくない。
- こうした状況にもかかわらず、情報サービス分野の大手企業各社は好業績を残している。例えば、International Business achines (IBM)、Electronic Data Systems (EDS)、Accenture 、Computer Sciences Corporation (CSC)、ヒューレット・パッカードの売上高上位5社の2003年度決算は、総じて、増収増益となった。なかでも、IBM、CSC、ヒューレット・パッカードが好調である。
この背景には、経営の重点をコスト削減から売り上げの増加に転換し、専門性および独自性の高いサービスを提供することに謔チて顧客基盤を拡大するといった事業戦略を打ち出していることがある。すなわち、(i)産業固有のノウハウや法制度などに関する専門性を一段と高め、顧客ニーズに合致したサービスをタイムリーに提供するとともに、(ii)独自の商品やサービスを開発し、より付加価値の高い情報サービスを提供することによって、競合他社との差別化を図り、顧客基盤を広げているといえよう。
こうした戦略を実現するために各社がとっている主な取り組みを整理すると、次の四つを指摘できる。
a.業務のセグメント化
顧客の固有のニーズに対応したきめ細かなサービスを提供するため、IBMやCSCなどは、情報システムの構築、コンサルティング、アウトソーシングなどの分野を中心に、業務をセグメント化し、それぞれの市場に精通した独自のサービスを提供できる組織体制を整備している。最近では、より専門的なサービスを提供するため、金融分野では保険、銀行、その他金融、製造業では自動車、電子機器、その他消費財など、セグメントをさらに細分化する傾向にある。
b.企業買収および業務提携
産業固有の専門性やサービスの独自性を向上させるために、産業に関する専門知識や独自の技術・ノウハウを有する企業の買収、あるいはそうした企業との業務提携が積極的に行われている。これは、(i)自社の人材やノウハウなどを活用した場合に比べ、より迅速に業務の専門性を高めることができるとともに、(ii)独自性の高い技術やノウハウを直ちに獲得できるためである。そのうえ、買収した企業や提携企業の持つ技術・ノウハウと自社のそれとのシナジー効果により、新たなサービスの創出に加え、市場シェアの拡大が期待できる点も理由の一つとなっている。
c.研究開発体制の拡充
継続的に独自性があり高付加価値のサービスや商品を提供するために、研究開発体制の拡充が進められている。顧客ニーズの多様化を受け、情報サービスの内容が様々な方向に拡大するなか、より多くの技術・ノウハウ、およびビジネスモデルなどの特許を取得することが、市場での競争力確保につながる。このため、近年、研究開発費を増額するとともに、他社の研究開発動向や市場ニーズのチェックなど研究開発部門をバックアップする組織の整備が進められている。
d.オフショア・アウトソーシングの活用
非コア事業および低付加価値分野においてオフショア・アウトソーシングが積極的に活用されている。もっとも、最近では、委託内容や委託先を見直す動きが広がり始めている。情報システムの不具合、いわゆるバグの修正のための費用や日数がかさみ、結果的にアメリカ国内での開発以上にコストがかかるケースがあり、オフショア・アウトソーシングが必ずしもコスト削減や業務の効率化につながるとはいえないためである。 - 以上のような事業戦略のもと、アメリカの情報サービス企業は、わが国にも積極的に攻勢をかけてきている。一方、低廉な人件費を背景に、インドや中国といった途上国の情報サービス企業も、コールセンターやデータセンターのみならず、システム構築やコンピュータを活用した人事・財務などの間接業務の分野でも、わが国に進出し始めた。このように、わが国の情報サービス市場でも、海外企業を交え、シェア競争やコスト競争が一段と激しさを増しているのが実情である。
このような状況にあって、上述したアメリカの有力企業の取り組みは、わが国の情報サービス企業にとっても、今後、海外企業に対する競争力を強化するうえで大きな示唆を与えよう。

