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コラム「研究員のココロ」

顧客志向の研究開発とは-前編

2003年12月01日 浅川秀之


(1)「顧客志向」とは?

顧客ニーズに合致した製品を、競合他社よりも早く、安く、うまく(高性能・高品質に)市場にリリースすることができれば、長期的に持続するかどうかは別問題として、その製品自体はある一定期間市場を席捲する可能性が高くなる。以前は研究開発部門内において「顧客志向」という言葉はほとんど耳にすることがなかったが、ここ数年来は頻繁に飛び交っているようだ。

だたし注意しなければならない事は、「顧客志向」とは単に顧客のニーズを満たすことを目標とする考え方をいっているだけであって、「何を、どうやって」という肝心の意味は含まれていない。「とにかく顧客志向の研究開発を!」とだけ上位部門や直属上司から指示を受けたのはいいが、具体的に顧客のニーズを満たすために何をどうやってよいのか悩んでいる研究開発部門の担当者も多いのではないか。

(2)なかなか結果に結びつかない研究開発

なかなか思うようにモノが売れない大きな理由の一つとして、研究開発部門の「これは売れる」という独り善がりな自信に基づいて製品がリリースされていたことがあげられる。大量規格品生産で、とにかく高性能、高品質を謳い、これにより実際に製品が売れていた時代は終焉を迎えている。性能が良いとか、品質が良いといった類のことはもはや当たり前のことで、顧客自身の欲求ステージはさらに上昇し続けている。

今はというと、研究開発部門は多種多様かつ変化周期の非常に短い一般消費者のニーズに振り回され、しかも研究開発費や製品投入のための資金が非常に少ないことも手伝って、何をいつ作ればよいのか判断しかねている状況であろう。

このような状況を打開するために、顧客ニーズを的確に把握しようとするアプローチが盛んである。また、研究開発投資を的確にマネジメントするために、 DCF(Discount Cash Flow)法やディシジョンツリーアナリシス、リアルオプションなどを用いた技術評価手法が取り沙汰されているが、これらの手法を適応する際にも、顧客のニーズを把握(もしくは予測)した上でシナリオを考察することが重要となる。

「顧客ニーズを把握すること」、非常にシンプルかつ誰もが分かっているはずのことである。何をいまさらという感があるが、実際に「ではどうやって真のニーズを把握するか?」と問われると、明快な処方を見つける事は難しい。過去においても、顧客の意見に耳を傾ける論文が多々執筆されており、各企業も多額の投資を繰り返し、顧客の欲しているものを知ろうと努力を惜しまなかった。

顧客のニーズを把握するために、様々なアンケートなどが実施されているが、真の意味での顧客ニーズを引き出すことは非常に難しい。基本的に、その製品に対する知識がほとんどない顧客に対して意見を求めたとしても、心理学者が呼ぶところの「機能的固定の壁(注1)」などに阻まれて、単純には真の意味でのニーズを抽出できない場合が多い。

(注1)通常の使い方にこだわってしまい、それ以外の機能などを顧客自身が柔軟に発想できなくなる傾向のこと。

後編において、顧客ニーズを把握する手法の例として「提供者側(売り手)主体」で引き出す方法と、「顧客(買い手)側主体」で創り出す方法の2つの事例を紹介する。全く視点の異なる2つのアプローチを比較し、イノベーションがどこで発生するかということに注目して私見を述べたい。
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