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コラム「研究員のココロ」

CM(コンストラクションマネジメント)の定着に向けて

2002年02月25日 山田英司


 建設業界において、CM(コンストラクションマネジメント)が注目を浴びつつある。専門誌はもとより、ビジネス誌の建設業界特集でも最近はCM関係の記事をよく目にするようになった。


 しかしながら、気にかかる点がある。CMの導入が建設コストの低減に直結するような論調が多く見受けられること、従来の一括請負型の手法がCMに劣るとみなされているということなどである。

 まず、建設コストの低減について考えてみたい。一般にはCMのもつ特性とは「建設コストの透明性を実現」することにあると云われているが、コストの透明性自体はコスト低減とイコールでないのはご理解いただけると思う。しかしながら、最近はこの2つが混同して論じられている傾向がある。実際には、現在、過度の供給過剰にある建設市場において採算を度外視した工事が多く存在する事態を考慮すると、CMの導入が却ってコスト高になるケースも充分にあるといえよう。


 余談ではあるが、個人的見解においてCM導入が「建設コストの透明性を実現する」ということについては異論がある。なぜなら、現在議論されているCMは専門工事業者の選定を発注者主導で行うことに主眼が置かれており、建設業界のもつ重層構造にメスを入れるまでには至ってはいないからである。その意味では、CM導入によって業者選定が発注者主導になることで、「発注プロセスの透明化と、ある程度のコスト構造の開示が実現できる」くらいの表現が適切なのではないかと思われる。

 次に、工事形態としてのCMと一括請負型の優劣を考えて行きたい。確かにCMについては発注プロセスが透明化されることで、ある程度のコスト構造は開示されることとなり、この点では一括請負型よりも格段に優れていると思われるが、一方でCM、特にピュアCMの場合は建設に絡む全ての関係者(発注者・設計者・施工者)がリスクを負うことになる。

 具体的には、建設工事におけるリスクとは、工期・技術・安全といった直接施工に関わることから、資金調達・事務負担増などの間接的なものまで多種多様であり、CMの場合はこれらの責任範囲をあらかじめ調整する必要がある。その点、一括請負方式の場合は元請会社に一切のリスクと煩雑な事務負担を集中させることが可能であり、工事のリスク回避や簡便性の視点からいうと一括請負の方がCMよりも優位に立っていると思われる。つまり発注者の目的により、それぞれの利点が活かされるわけで一概にどちらが優れているとは言えないのである。

 CM導入の意義について考えると、個人的には顧客である発注者に建設市場における建設方法の選択権を与えることだと思っている。その結果が従来の施工者(特にゼネコン)主体の一括請負単品市場から顧客主導市場への転換の可能になることにあるのではないか。その意味では、CMの導入と発展に関しては、建設市場をいかに再構築するかという視点が不可欠であるに違いない。


 買い手については、何が何でも安く作れという発注者から、証券化等により資金調達したことで、価格は安いに越したことはないが、出資者への説明責任から発注プロセスやコスト構造を把握したいという発注者まで多種多様になっている。したがって、売り手である施工者は発注者に採用し得る建設方法を提示し、最終的には発注者に判断を委ねる態度が必要となる。


 一方、買い手である発注者は建設プロセスにおいては、工事費の他に、各種のリスク回避や事務負担のためのコストが発生することを認識し、施工者に適切な対価を支払う姿勢が必要である。


 これらができて初めて発注者と施工者の間に信頼関係が構築され、いわゆる「値ごろ感」を満たす適正な市場が形成されて、この中ではじめてCMという建設手法が定着するのではないかと思われる。

 話は変わるが、CMの導入と定着を加速させたいのであれば、建設工事のマネジメントに秀でるゼネコンに積極的に取り組んでもらう必要があるが、実際はCMに関してはゼネコンはさほど積極的ではない。巷ではコスト構造を開示したくないというゼネコンの事情が強調されているが、実際のところの大きな要因は、特にピュアCMの場合、売上の絶対額が小さいことにある。


 ゼネコンは、特に公共工事において過年度の売上高が次年度以降の受注に影響するため、売上高の絶対額の大きさにこだわる。この辺の事情を勘案して公共工事発注時のインセンティブの付与や、工事費総額を取扱い高などの形で会計上開示できるような仕組みを検討することも必要なのではないか。

 最後に、CMの定着における課題を下記に列挙する。これらの課題が着実にクリアーされ建設市場の再構築にCMが寄与することを切に願う次第である。

 課題
  1.  建設業法の見直し(一括請負前提からの転換)
  2.  ガイドライン等の整備(リスクや責任範囲の分担の方法提示)
  3.  経営事項審査の要件緩和(CM実績の取りこみ方再考)
  4.  会計基準などの要件緩和(扱い高のPL注記容認など)
  5.  ビジネスインフラの充実(発注者の資金調達やリスク分散のための保険システム)
  6.  ITの効果的な利用(電子入札の一般化や発注事務の効率化など)
  ※ 1.~4.は行政、5.、6,は民間が主導となって行くべきと思われる。
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