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コラム「研究員のココロ」

焼却灰リサイクルの落とし穴
~問われる再生スラグの安全性~

2002年01月14日 


 私達の日常生活から排出されるゴミの大半は焼却処分されているが、重量で10~15%に相当する焼却灰が残る。

 その焼却灰に熱処理を加えると、さらに2分の1から3分の1程度に減容できる。焼却灰にはダイオキシンや重金属等の有害物質が多く含まれるが、加熱のプロセスでダイオキシンは熱分解、沸点の低い重金属は排ガスとして揮発してしまう。そして、処理後に生成するガラス状の固化物「スラグ」は、材料としての特性が砂に近いため、路盤材やコンクリート用骨材として再利用が可能であるという。

 一見、理想的な廃棄物のリサイクルのようである。しかしスラグには、沸点が高く揮発しきれなかった重金属が依然として含まれている。スラグの主成分であるシリカ(SiO2)は網目構造を形成しており、重金属はこの中に包み込まれることで容易には外部に溶出しないものと考えられている。

 さらに事前には一定の溶出試験を行い、溶出物が検出されないことを確認してから使用することにはなっているが、スラグの用途は主に建設資材であり、屋外で長期間使用するものである。雨や風、紫外線、急激な温度変化などの刺激が繰り返し与えられるという、材料にとっては極めて過酷な条件のもと、スラグに予想外の変化が起きても何ら不思議はない。万が一、再利用されたスラグから重金属が流出した場合には、深刻な環境汚染を招くことになりかねないのである。

 一般廃棄物の焼却炉から排出される焼却灰は、全国で約780万トンに上り、埋立廃棄物量全体の約6割に相当する。今後は埋立処分場の拡大が難しくなることから、焼却灰をスラグ化し再利用するという動きが次第に活発になっている。しかし、長期間の安定性を保証するための手段として、現在行われている溶出試験は果たして適切であるといえるのだろうか。

 有害物質の溶出試験には多様な考え方があり、その目的に応じて世界各国で様々な方法が採用されている。基本的には粉砕したスラグを溶媒中で一定時間振とうし、溶出した重金属の量・濃度を確認するものだが、オランダの方法は最も厳しく「現実に想定できる最も過酷な条件下で溶出し得る量」(最大溶出可能量)を測定する。

 まず重金属の溶出が起こりやすい酸性溶媒を使用する。酸性雨が降り注ぐ可能性を考えれば、過酷ではあるがより現実的な条件である。大半のスラグはアルカリ性であるため、緩衝液を加えることでpHを一定に保つ工夫がされている。また溶媒とスラグの液固比=溶媒/スラグ(mL/g)=100で、最大限に重金属の溶出が起こるような条件が整えられている。

 それに対し我が国の環境庁告示46号は、一定条件での溶出量が基準値以下であることを確認する「スラグにいくら有害重金属が入っていてもそれが溶け出さなければよい」という考え方である。ほぼ中性の溶媒を使用、液固比は10、使用するスラグの粒径もオランダの15倍程度大きく、オランダと比較すると重金属が非常に溶け出しにくい条件といえる。緩衝液も一切使用しない。

 どのような溶出条件がより現実的な環境を再現できるのかは、各国の土壌の状況にも依存するし、議論が分かれるところである。いずれにしても、過酷な条件下で長期間使用されるスラグの安全性を確認する際には、オランダのような方法によって、「最大限溶出可能」な重金属の量を把握しておくことは必要ではないだろうか。

 しかしいくら厳しい溶出条件を設定しても、現実にはそれをさらに上回るような過酷な環境変化が訪れるかもしれない。スラグに重金属が含まれている以上、それらが外に流出する危険性を、現時点で完全に否定することは不可能である。実験では決して再現することのできない長期間の安定性を確保するには、スラグから有害物質を一切排除するのが最も確かな方策であることは間違いない。

 実は、重金属を含まないスラグを作製できる高度な技術はすでに開発されている。しかし、コストが高いため一般の利用には供されていない。従来の処理方法によるスラグでも環境庁告示46号を満たすため、ユーザー側としてはせっかくの技術を採用する必要性がないのだ。しかし、基準値をクリアしてはいるが有害な重金属を含んでいるという、「中途半端」な再生スラグばかりがこの先大量生産され、再利用され続けて良いのだろうか。

 再生品の利用に関して厳しい基準を設けることは、一見、その再利用を妨げるように思われるが、それによって厳しい基準を打破しようとする技術革新が進む。有害物質を一切含まず、且つ低コストのスラグの作製が可能になれば、スラグの用途は十分に拡大、再利用が進んでいくはずだ。

 十分とはいえない基準値を維持する、さらには規制を安直に緩和することでスラグの用途を広げることは、本質的な問題解決とは程遠く、近い将来には深刻な環境汚染を招くことにもなりかねない。有害物質を完全に除去したスラグがスムーズに再利用されるような条件を整備することこそが、本質的な環境対策であるといえる。

 我が国の環境保全技術は世界でもトップレベルにあるといえる。環境基準やリサイクル率等の環境問題の取り組み全般では、欧米に一歩も二歩も出遅れている日本が、環境先進国の仲間入りを果たすには、高度な技術を駆使した根本的な解決手段の提供こそが必要とされているのではないだろうか。
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