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コラム「研究員のココロ」

市民参加型まちづくりの勘どころ

2003年03月17日 金子 和夫


 全国各地で市民参加のまちづくりが取り組まれています。わたしは、まちづくりコンサルタントとして、各地の市民参加型まちづくりを支援していますが、よく、どうしたら、市民参加型まちづくりがうまくいくのかと聞かれます。
 
 たとえば、商工会議所がタウンマネジメント機関を設立して、市民の意見を聞く場を設けたが、意見は出るけれども、具体的に何かをしようという方向に行かない、または市民の活動が盛り上がらないという声を聞きます。また、市民は要望するだけで、何もしないから、あてにならないとか、市民とどのように取り組んだらよいか困っている様子が伝わってきます。

 わたしは、市民参加型まちづくりは、人材の育成、まちづくり論議、まちづくりの調査から計画づくり、そして実行まで、市民をしっかり巻き込んで、行政やTMOといっしょに取り組むことが重要であると思っています。
 
 ここでは、どうしたら、市民参加のまちづくりがうまくいくか、これまでの経験をもとに整理してみたいと思います。

これまでの市民参加の問題点

 市民参加のまちづくりといいながら、委員会形式で、学識経験者、各種団体の長が集まり、コンサルタントが作成した素案について意見を述べるだけの方式が多く見られます。これでは、市民参加の面白さが発揮されません。

 では、どうしたら、よいのでしょうか。わたしは、市民が自分で考え、自分で計画をつくり、自分で実行することを基本とし、それを行政が支援することであろうと考えています。これにより、市民主体のまちづくりの考え方が出てきます。

市民参加型まちづくりのケース

 Y市は市総合計画で市民参加のまちづくりを明確に打ち出して、市民まちづくり活動を総合的に育成支援する体制を整えてきました。まず、まちづくりの手法を学び、市民活動のリーダーの役目を果たすファシリテーター人材を育成する場として「まちづくり達人養成塾」を開催しました。まちづくり達人養成塾(以下まち塾と略す)では1期10回で、ワークショップ手法を活用して、まちづくり手法を学びます。まち塾から市民まちづくりグループや団体が誕生してきたところで、市は「市民まちづくりアイデア公募支援事業」を打ち、公開審査方式で優秀なアイデアを選考して助成しました。これにより、市民まちづくり活動は一気に開花していきました。市民グループの中には、市民まちづくり支援の仕組みづくりに取り組むところもあらわれ、市は「市民活動支援センター」を商店街に整備して、運営をまち塾OBが組織したグループに委託しました。現在、市民活動支援センターは、いつも市民が出入りして活気あふれる場所となっています。また、Y市は、行政の計画づくりのプロセスに市民参加型ワークショップを開催し、その運営にも市民が関わっています。Y市のケースは、人づくりからしっかり取り組んだこと、市民にワークショップ手法をしっかり伝えたことが大きな成果を生んだと考えられます。

市民参加を成功させる方法

 そこで、市民参加型まちづくりを成功させる方法をいくつか整理してみましょう。

・ワークショップ手法を活用する

 市民が自分の意見を出しあい、整理して、事業計画を作成するためには、各種意見を整理する方法や、合意形成の方法など、一定の手法や技術を習得する必要があります。集まった市民がお互いを知り合い、友好的な関係を作り上げて、初めて議論が可能となります。最初から議論ありきではないのです。人はそれぞれ価値観が異なるため、いきなり議論から入ると、互いの違いばかりが強調されて、合意形成ができなくなります。そこでグループワークに適したワークショップ手法を活用します。

・どんな人を集めるか

 ワークショップには、いろんな人が集まってきます。とにかく自己主張したい人、すでに活動しており仲間を作りたい人、何か活動したいが何をしたら良いか探しに来る人など、参加の動機はさまざまです。一方で、これまでまちづくりに関わってきた人の中には、既存の仲間意識が強く働いて、新たな市民の参加を必ずしも歓迎しないことがあります。市民参加のまちづくりを始めようとする時、従来より活動してきた団体に依存すると、期待している人材が集まらないことがあり、あまり期待しないほうが良いと思います。


 それよりも、これまで参加の機会がなく、フレッシュな気持ちで参加したいと考える市民を対象として取り組むのが最も効果的であると思います。若者、女性、高齢者がもっとも力になります。若者は地域社会において、日頃発言の機会が少なく、地元ではなく、外で活動している場合があり、地元との接点を求めています。女性は、地域で活発に活動していますが、自分達の活動がまちづくりにつながる機会を求めています。高齢者は、知恵の宝庫であり、時間と手間を十分持っており、力になります。またUターン人材は、これも地域社会との接点が少ないことから、積極的に参加してこられますし、外を見た目でまちづくりに新風を吹き込みます。ワークショップは、誰を集めるかで成功・不成功が決まるといっても過言ではありません。ぜひ、工夫していただきたいと思います。

・誰が運営するか

 ワークショップの運営は、参加者を主役として位置づけ、楽しく、創造的に、活動できるように支援する人材としてファシリテーターが必要です。ファシリテーターは各種プログラムを熟知し、プログラムを作成して、参加者を飽きさせない工夫をします。また、ワークショップの企画・運営を支援するサポーターも重要です。最初、何が始まるのか、参加者はとまどいますが、地域住民で構成したサポーターがいっしょに活動することで、安心して、参加できます。サポーターは1グループ6人に1人ずつ確保できるとベストです。

・議論にたたき台を出さない

 市民が考え、実行することに意義があります。最初からたたき台を出さないことが重要です。議論が行き詰まったら、アドバイスします。また必要と思われる情報を提供します。

 しかし、参加者は市民としての情報しかもっていませんから、必要に応じて、主催団体が必要情報を提供したり、現地調査、フィールドワークを行なうなどして、学習していただきます。そして事業計画づくりでは、アイデア出し、全員による評価、アイデアの絞込み、そして事業化とステップを踏んで整理していきます。このような作業ステップはコンサルタントの作業と変わるものではなく、きわめてしっかりとしたものといえます。

・チームづくり

 ワークショップのもうひとつの成果が仲間づくりです。ワークショップでは、参加者のゆるやかな関係づくりを重視し、いっしょにテーマに取り組もうという仲間ができています。事業計画をつくり、いっしょに実行していこうと、すばらしい仲間を大事にしたいので、継続的に活動していこうということになります。これが、市民参加のまちづくりにおいて、最も重要なポイントです。提案に終わるのではなく、提案者が実行して行くのです。実は、チームづくりはワークショップの重要な側面です。ワークショップでは、毎回、プログラム終了後に、簡単な茶話会を行ないます。ここでは、参加者ひとりひとりのつぶやきを引き出す簡単なゲームをします。自分の思い、まちに対する愛情など、参加者の声を好感していくなかで、共感集団が形成されていきます。

市民まちづくり

 このように市民参加型まちづくりは、人材づくり、仲間づくり、事業づくり、実行支援と一連の活動をプログラムして初めて効果を上げるものです。
 わたしは、市民参加型まちづくりを支援していて、すばらしい人材に出会うことが大きな喜びです。今後も、すばらしい方との出会いを楽しみに、支援していこうと思っています。
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