JRIレビュー Vol.3, No.130
創薬エコシステムを回すには製薬企業の変革が不可欠 ―ゾロ新からピカ新へ資源配分のシフトを―
2026年03月24日 成瀬道紀
創薬力の強化は、国民の健康改善、および、経済成長の観点から、極めて重要な課題である。しかし、近年わが国の創薬力は低下傾向にあるとみられる。具体的には、2000年代以降、創薬の主流は化学合成品からバイオ技術を用いた医薬品へシフトしているが、わが国製薬産業は対応が遅れた。化学合成品であれば、アカデミアの基礎研究の成果をもとにしつつ、製薬企業(本稿では業歴を重ねた新薬メーカーを指す)が自力で革新的な新薬(いわゆるピカ新)を開発できる場合が多い。一方、バイオ技術を用いた医薬品では、技術の高度化・複雑化もあり、アカデミアの基礎研究の成果をシーズとしながら、創薬スタートアップが新薬の候補を見出し、製薬企業がその新薬候補について臨床試験(治験)を実施し政府の承認を得るという連携が求められる。このような連携は創薬エコシステムと呼ばれる。実際、アメリカをはじめとする創薬力の高い国は、創薬エコシステムが発展している。
わが国は、2010年代半ば頃まで創薬スタートアップが極めて少なかったため、創薬エコシステムに関する政策は、スタートアップ支援に重点が置かれた。現在では、政策効果も表れ創薬スタートアップの活動は活性化する一方、むしろ製薬企業がボトルネックとなり、創薬エコシステムが回っていない状況といえる。すなわち、創薬スタートアップが見出した新薬の候補について、製薬企業がリスクをとってM&A(買収)等により入手したうえで臨床試験を行うような動きは低調である。なお、多額の費用を要する臨床試験は、一般に創薬スタートアップより、資金力の豊富な製薬企業に優位性がある。
こうした製薬企業の保守性は、もちろん製薬企業自身の経営の問題でもあるが、リスクをとってピカ新を開発するインセンティブに乏しいという経営環境の影響が大きいとみられる。既存薬を僅かに改変しただけで効果がほぼ同等の新薬(いわゆるゾロ新)を開発・販売していれば経営が成り立ち、一方で、「市場拡大再算定」に象徴される「出る杭を打つ」ような薬価制度のもと、ピカ新の薬価は抑制される傾向にある。実際、新薬にかかる薬剤費の多くはゾロ新に費やされている。ゾロ新の開発であれば、そもそも創薬エコシステムを活用する必要性は低い。
以上の議論を踏まえると、製薬企業は、ピカ新の開発に果敢に挑戦する経営の変革が求められる。製薬企業のそうした行動変容を促す政策面の対応として、ゾロ新ばかりでは経営が成り立たない環境とし、ピカ新を開発するインセンティブを高める必要があり、具体的には以下の二つの施策が挙げられる。一つは、保険給付上のメリハリである。ゾロ新は原則保険適用しないこととし、それにより捻出した財源で、ピカ新の薬価を高く評価する。もう一つは、研究開発税制におけるメリハリである。ゾロ新にかかる研究開発費は研究開発税制の対象外とする一方、ピカ新にかかるものは研究開発税制で法人税額を控除する際の控除率を高くする。以上の施策により、わが国の創薬力を高め、国民の健康改善と経済成長を図っていくことが望まれる。
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