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Economist Column No.2025-070

中国車メーカー誘致で見えるトランプ政権の死角

2026年01月16日 福田直之


2026 年1月 13 日、トランプ米大統領はデトロイトで講演し、中国メーカーに米国での工場建設を促す趣旨で「中国も日本も参入してこい」と述べた(注1)。工場ができれば雇用を生むため、トランプ大統領らしい「ディール(取引)」の申し出と言える。米国は現在、中国からの電気自動車(Electric Vehicle, EV)輸入に 100%の高関税をかけており、中国メーカーは米国で生産すれば関税を回避することができる。

■現地生産の先に見えるもの:日本勢との決定的な差
貿易摩擦を工場進出で解消した例といえば、1980 年代~90 年代の日本である。日米自動車摩擦を経験した日本メーカーは米国での現地生産を進め、雇用や製造技術を含めた自動車産業の発展に貢献した。ただし、日本勢と中国勢は同列に置けない。
中国当局は、戦略産業で優位性を失わないため、日本に比べて厳しい技術保護政策をとっている。先進的な EV の製造技術を国内にとどめ、主要部品は中国で生産し、海外工場は最終組立に用いるよう国内企業に促しており、雇用効果も小さくなりやすい。また、「輸出禁止・制限技術リスト」で、希土類(レアアース)を利用した磁石技術の輸出禁止や車載電池の正極材の輸出許可制を定めている。米国側の技術獲得が難しかったり、中国の政治的意図によっていつでも供給に影響を与えたりすることができる。通常、技術的に進んだ国の企業から、技術的に遅れた国へ技術が移転してゆくものだが、その波及は限定される(注2)。

■置き去りにされる安全保障政策
重要な問題は、安全保障上のリスクを高める可能性があることである。米国では、「中国を含む懸念国からの技術・データシステムに依存するコネクテッドカー(インターネットへの接続機能を有した自動車)は、国家安全保障を脅かす形で悪用される恐れがある」として、この技術を使用する車両を規制対象にしている。電池製造、ソフトウェア、通信・データ、企業ガバナンスといった点において、中国政府の影響力は大きく、たとえ製造拠点が中国外になったとしても中国企業が製造したコネクテッドカーが広まることでリスクの高まりは避けられない。

■「アメリカ・ファースト」なのか
さらに、米市場を揺るがし得るのは圧倒的な低コスト製造技術に裏打ちされた中国車の安さである。中国では 2025 年1〜11 月に新エネルギー車(EV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)を 1,490.7 万台生産し、輸出は 231.5 万台(生産の 15.5%)に達した(注3)。中国メーカーは巨大な生産力に加えて、電池や原材料まで一貫して握ることで世界におけるコスト競争力を高めてきた。米国製造への参入が本格化すれば、既存メーカーの収益と雇用を圧迫し、トランプ大統領が本来守りたいはずの米国メーカーの衰退を加速させる恐れもある。
バイデン政権期のインフレ抑制法によって、サプライチェーンの米国内への回帰が進み、とりわけ太陽光パネル生産は飛躍的に拡大した。ただし、これは中国企業からの投資で実現したケースが多い(注4)。市場を中国メーカーに浸食され、米国メーカーが衰退するような状況は、「アメリカ・ファースト」の政策なのであろうか。
欧州では、中国企業による投資を受け入れる際、技術やノウハウの移転などを条件とする案が検討されていることが報道されている(注5)。仮に米国も、中国メーカーの投資を受け入れるならば、同様の厳しい措置を考える必要が出てくるだろう。ただ何よりも米国は、目先の雇用対策で安易に中国依存を高めるのではなく、米国メーカーの競争力強化を我が国のような同盟国との強力によって成し遂げ、持続的なサプライチェーンを築く方向性に戻っていくことが望ましい。


(注1)日本経済新聞 [2026 年 1 月 14 日] 『トランプ氏、中国車メーカーの米国生産に前向き 「参入してこい」』
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1407D0U6A110C2000000/
(注2)福田直之 [2025] 「経済安全保障により拡大する技術移転規制-重要となる対象の選別と企業のルール形成参画-」 日本総合研究所『JRI レビュー』
(注3)マークラインズ
(注4)ヘイゼン, L.・パターソン, J.・野木森 稔 [2025] 「太陽光パネル国内製造とその拡大の可能性~太陽光発電の将来の重要性を考え、国家主導の戦略的対応が必要に~」 日本総合研究所『リサーチ・フォーカス』
(注5)ロイター [2025 年 10 月 15 日] 『EU、中国投資に技術移転要求を検討 経済安保強化へ』
https://jp.reuters.com/markets/japan/LBTXQSUWURKJVKODTBYLFXBLAI-2025-
10-15/



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