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社会課題解決に向けた『価値創発モデル』のアプローチ

2025年12月09日 木通秀樹


 創発戦略センターにおける社会課題解決に向けたアプローチの一つに『価値創発モデル』がある。本モデルは、これまでDX文脈での重要性を強調して『Social DX』と称してきたが、DXのみならず、社会課題などの解決アプローチとして、新たな価値創出を行う仕組みとして幅広く活用していくために、新たなネーミングを行うこととした。

 価値創発モデルでは、社会的な課題の解決に向けて、潜在的な価値を掘り起こして新たな市場の創出を目指す。社会的な課題の解決には、温暖化や資源枯渇など産業システムの変革が必要なものや、貧困などの社会的な支援システムの変革が求められるものなどがある。いずれのケースにおいても、制度の変革などは容易には進まない。こうした状況に対して、社会に潜在する新たな価値を掘り起こして、新たな市場創出によって社会価値を創出する活動が、価値創発モデルとなる。
 新たな価値を掘り起こす際には、価値の種類に注意が必要である。ここでは、価値を根源価値、交換価値、使用価値の3種類に分類して、それぞれ別々に価値創出の方法を構想する。3つの価値の定義を行ったマルクスの資本論の例を用いるなら、労働が根源価値で、交換価値はお金などで、使用価値はパンなどであり、食べることで空腹を満たし、おいしいと感じることである。根源価値には、この他にも、石油などのエネルギー資源、鉱物資源などの物質系のものだけでなく、人のやる気、貢献心、ノウハウや、バーチャル空間のような非物質系のものなどがある。
 成熟した市場では、既存の根源価値を用いていかに使用価値を向上するか、つまり、いかに顧客の多様なニーズに合わせておいしく食べられるようにするか、など使用価値のアイデアがカギになる。一方、新市場創出の際には、そもそも何に新たな価値を見出すかという根源価値の掘り起しがカギとなる。言い換えると、新市場では、いかに根源価値の姿を捉え、課題の構造に沿って使用するかが大事になる。

 根源価値を掘り起こすにはどうすればいいか。例えば、石油を掘り起こすには、どこにあるかを発見し、厚い岩盤を掘り進むドリルが必要であり、さらには、得られる石油を灯油として利用する需要が必要であった。そこに、小型蒸気機関によるドリルの技術革新と、都市人口増大による灯り用鯨油の需要拡大を結びつけることで推進力を生み出し、新たな仕組みが構築された。最近の例では、地球温暖化に対してCO2削減量という非物質系の潜在価値を見出して市場取引を可能とし、産業の持続性という使用価値を生み出し、人々の生活を守る社会価値を創出した。このように新たな根源価値の掘り起しを行って新たな仕組みを生み出すのが価値創発モデルの典型例となる。
 現在、筆者らは、EVの電池価値を掘り起こすことで、EVのアフターマーケット創出のプロジェクトに取り組んでいる。EVでは、一定期間使用後の電池の価値が国内で適切に認められないことによる、資源の海外流出が止まらない。そこで、使用後の電池の適切な能力評価や使い方の開発を行い、潜在価値を掘り起こして顧客価値を顕在化するとともに、中古EV、電池および資源の国内残留と地域防災利用などを行い、さらに、EVの普及に貢献するなどの社会価値向上の取組みを、多くの企業、国、自治体とともに進めている。
 この他にも格差の問題など、新たな潜在価値の発掘が望まれるテーマは多く、こうした社会課題の解決や、新市場の創出に価値創発モデルは活用できる。

 価値創発モデルは、社会的な課題解決に向けた一つのアプローチとして、創発戦略センターがこれまで取り組んできた手法である。社会的なムーブメントの創出や、エコシステム構築、評価制度や流通市場立上げなど、その取組みは大変ではあるが、本モデルを活用することで、着実に進めて行くことが可能となる。多くの方々とともに戦略的に価値創出とエコシステム形成を進めていくことを目指したい。


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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