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JRIレビュー Vol.10, No.128

カーボンニュートラルに向けた中国の産業育成戦略 -太陽光・EV 産業から水素産業まで-

2025年11月06日 王婷


中国の脱炭素産業政策は、国内外で複雑な環境に直面している。国外では、アメリカのトランプ大統領が2025年1月の就任直後、「パリ協定」から離脱する大統領令に署名した。欧州では、2022年に導入された「炭素国境調整」に象徴されるように、中国からの安価な太陽光パネルや電気自動車などの脱炭素関連製品の輸入に対して規制を強める動きが高まっている。

中国国内では、増加するエネルギー需要や一次エネルギー輸入依存度の高さ、さらにはAI時代となり2030年までに電力需要がさらに20%以上増加するという予測を考慮し、国内で利用可能な再エネや原子力を活用して、自給自足のエネルギーシステムを構築しようとしている。脱炭素への取り組みは、中国のエネルギー安全保障において重要な課題となっている。

中国は2006年に始まった第11次5か年計画で初めて省エネの数値目標を導入し、その後の第12次5か年計画で再エネの数値目標を初めて導入した。これにより、中国の脱炭素産業は大きな躍進を遂げている。太陽光発電と電気自動車は、その規模や成長スピードの点で世界でも有数の存在となっている。この成功の要因として、中央政府による補助金制度を中心とした支援策、地方政府による産業集積と技術開発実証の支援、企業の技術開発努力など、官民連携の施策が挙げられる。水素、CCUS、次世代電力ネットワークは、今後の重要な脱炭素技術であり、これまでの太陽光発電と電気自動車の産業育成の経験を踏まえて、市場普及と技術開発が進められている。

一方で、脱炭素産業の育成には課題も多く存在する。企業間の過度な競争により、太陽光やEVの国内価格が下落し、海外への輸出価格も下落した。これにより、企業の経営が困難になるだけでなく、諸外国との貿易競争にも陥っている。また、地方政府は過度な財政支出や無駄な投資、地方保護主義などが原因で債務問題に直面し、財政困難に陥る地域も少なくない。これは、企業と地方政府の持続的な発展の妨げとなっている。過度な競争の抑制にむけて、最近「反不正競争法」の改正や「価格法修正草案」の提出が行われたほか、2025年7月の中央財経委員会の会議では「法に基づき、企業の低価格で無秩序な競争を規制する」という方針が示された。今後、中央政府は過度な競争が起きないような仕組みづくりを強化するだろう。

わが国においても、2025年1月に第7次エネルギー計画が公表され、2040年に向けて脱炭素産業振興への取り組みを加速する計画が立てられている。中国の方策をそのまま取り入れることは難しいが、官民共同の市場開拓の強化や、企業主導の共通技術開発プラットフォーム構築の試みなど、中国が講じてきた施策が参考になるだろう。


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