オピニオン 異なる価値観の共存と連携から生まれる創発の力 2025年11月11日 辻本まりえ 創発戦略センターは、「ドゥタンク」を掲げるインキュベーション組織だ。最近では“インキュベーション”という言葉も耳なじみのあるものになってきたが、私が創発戦略センターの門を叩いた約10年前は、まだまだ新しい挑戦の真っただ中にある組織だった。 そんな創発戦略センターの研究員には、「スペシャリスト系」と「マネジャー系」という2つのキャリア系統がある。それぞれの系統には異なる役割と強みがあり、組織としての創発力を支える両輪となっている。 スペシャリスト系は、「0→1」を生み出す人たちだ。専門性や問題意識を深く掘り下げ、まだ言語化されていない社会課題に対して新しい問いを立てる。そして、構造的な論を描きながら、未来を見通すアイデアを生み出していく。彼らの思考は、組織の思想や戦略の“源泉”をつくり出す。 一方、マネジャー系は、こうした構想を「1→10」へと展開していく推進役だ。スペシャリストが描いた未来像をもとに、複数のステークホルダーを巻き込み、事業化・政策立案といった社会実装に向けた具体的なアクションへと導いていく。関係者と対話を重ね、資源を集め、事業や政策に落とし込む。どんなパートナーと組むか、どんな形で実装するかを描く。実行フェーズにおいてプロジェクトを動かし続ける担い手である。 この2つの系統が、それぞれの価値観や働き方を大事にしながらも、共にチームをつくりあげていくところに、創発戦略センターのユニークさがある。つまり、「異なる価値観の共存と連携」が、私たちの活動の土台となっている。 もちろん、違いがあるからこそ、すれ違いが起こることもある。抽象度の高い議論と、現場での現実的な動きが交わるには、丁寧な対話や相互理解が欠かせない。だからこそ、創発戦略センターでは“考えを持ち寄り、言葉にして伝える”という文化を大切にしてている。定例のミーティングだけでなく、少人数の対話や集中検討の場を通して、お互いの視点を行き来することが習慣になっている。 さらに、キャリアの柔軟さもポイントだ。マネジャー系の研究員が特定分野の専門性を深めていくこともあれば、スペシャリスト系の研究員が実践の場に入り込み、プロジェクトをリードすることもある。このような“越境”の経験が、それぞれの理解を深めると同時に、次の挑戦のきっかけにもなっている。 創発の現場では、正解のない問いに取り組むことが多い。だからこそ、多様な価値観を持ったメンバーが、お互いの力を信じ、掛け合わせていくことが欠かせない。スペシャリストとマネジャー、それぞれの視点が交差するところに、新しいプロジェクトや未来の可能性が芽吹いていく。異なる価値観が共にあるからこそ、豊かでしなやかな発想が生まれる。これからもその共存と連携の中で、私たちは問いを立て続けていきたいと思う。本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。