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Economist Column No.2025-049

副首都構想を経済面から考える

2025年10月20日 若林厚仁


9月30日、日本維新の会は「副首都構想」について、法案の骨子案をまとめた。自民党との政権枠組み協議の際の重要テーマの一つとして掲げており、2026年の通常国会での関連法案成立を目指している。首都機能をバックアップする副首都の構想自体は20年前から存在するが、政治的な動きから足元で再び関心が高まっている。本稿では、そもそもの副首都の定義と経済性、および大阪都構想との関係を確認する。

■副首都は平時の経済成長と非常時のバックアップを担う
最初に、副首都の定義であるが、法律における副首都の定めは存在しない(首都についても、法律での「首都圏」の定めは存在するが、「首都」の定めは存在しない)。現在、大阪府市では「副首都ビジョン」を制定し、副首都・大阪を推進しているが、同ビジョンでは副首都を、①平時には、東京圏に並ぶ経済の中心として日本経済の成長をけん引できる都市圏、②災害などの非常時には、首都機能をバックアップできる都市圏であると定義している。首都とは経済や国政の中心地であり、副首都はそうした首都機能を代替できる都市圏だと考えるならば、副首都ビジョンにおける定義付けは首肯できる。

■副首都の必要性は経済的側面で高まっている
次に、副首都の必要性について、上記①の平時の経済的側面から考える。まず、東京一極集中には経済活動の集約によるコスト削減、高度な人材・インフラの集積による高付加価値産業の創出、国際的な都市間競争力強化などのメリットがあり、副首都設置による分散化がわが国の競争力を弱める可能性はゼロではない。
もっとも、近年では一極集中の弊害が目立ち始めている。20年以上続いたデフレからの脱却に伴い、不動産価格は低下から上昇に転じており、特に東京都心部の上昇は著しい。経済の東京一極集中が進む限り、多くの現役世代は東京圏に住まざるを得ず、住宅ローンや家賃負担は重くなるばかりである。地方においても、人口減少が進むなかで地場産業の担い手不足が深刻化しつつある。成長が続く情報通信業や金融業などの高付加価値サービス業は東京都に集中しており、市場原理に従う限り、人や資本の東京一極集中は変わらない。こうしたなか、副首都を法的に定義し、規制緩和や国からの税源移譲などの大胆な措置を行うことで、東京圏に並ぶ経済の中心地を作っていくという政策は、わが国経済の持続性の観点から検討の余地がある。
一方で、上記②のバックアップ機能については、現在、わが国の政治・行政は永田町や霞が関に集中しているが、平時にこれを分散化する必要性は乏しく、分散化の実例は消費者庁の徳島県への一部移転や、文化庁の京都府への移転など、ごく一部にとどまる。震災などの非常時においても、都心から約30㎞の近さの立川の広域防災基地でバックアップ可能という指摘もある。バックアップ機能については経済面から進めていくのが妥当であろう。

■副首都構想と大阪都構想は別物
上記の通り、副首都構想は国家レベルでの機能移転であるのに対し、大阪都構想は大阪市を廃止して特別区に再編するという地方自治体の再編であり、基本的には別物である。もっとも、日本維新の会がまとめた「副首都法案」の骨子案では、副首都申請の際には、大都市法に基づく特別区が設置されていることが申請要件とされていることから、大阪都構想の実現が前提になっているとも指摘されている。
大阪都構想については賛否両論あり、2015年と2020年に行われた住民投票ではいずれも僅差で否決された。詳細については言及しないが、再び住民投票を実施する場合は、前の二回から何が変わったかを大阪市民に丁寧に説明する必要がある。

■副首都構想は道州制への布石
2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が公布され、地方創生が本格的にスタートしてから10年超が経過した。その間、様々な取り組みが行われ、地域活性化の好事例も生まれているが、少なくとも人口移動の面では東京圏への一極集中は止まっていない。
副首都構想という大きな統治機構改革は、中央集権体制を前提とした現在の地方創生のあり方を大きく変える可能性を秘めており、地方に権限や財政を移管する道州制への布石とも言える。引き続きその動向が注目される。


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