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ビューポイント No.2025-024

【自律協生社会シリーズ⑥】
地方自治のあり方を再構築し 広域と圏域で地方創生を進めよ

2025年10月14日 山崎新太佐藤悠太


1.住民を中心に据えて地方自治のあり方を見直す
地方創生には 2 つの側面からアプローチする必要がある。一つは「ハード・ソフトのインフラの維持とそのための行政サービスのあり方」であり、もう一方は「魅力の創造とそれを生み出す地域経済のあり方」である。これらはまとめて「地方自治のあり方」といえる。鍵となるのは、住民(個人・コミュニティ)を中心に据えることであり、裏を返すと既存の行政区分にとらわれないことでもある。

2.インフラの維持と行政サービスのあり方~二層構造への再編
(1)まちの規模と範囲の縮小が急務~量を減らし質を維持する
人口減少を背景に、特に地方小都市においては、人が住むエリアの縮小が避けられない。まちとインフラの量を減らすことで居住環境の質を確保する必要がある。行政が居住環境への責任を負うエリアと、フルセットでのサービスを担保できないエリアを明示し、居住地選択の規制と誘導をこれまで以上に積極的に仕掛けるべきである。

コンパクトシティは主に建築物の新規整備を抑制するものだが、これに加え、インフラの新設整備の規制はもとより、その縮小を動機づけるような制度を構築する必要がある。上下水道、道路に加え、公共施設を含めた公共インフラ全般の維持・縮小に関する大胆な仕組みづくりについて全庁横断で検討するべきである。

一方で居住地の選択の自由は残る。エリアによっては行政の負担について上限を定めたうえで最低限の行政サービスを提供し、生活の多くの部分を住民自身の責任にて営む決断を求めていくことも必要となる。

(2)国⇔都道府県・大都市の二層構造への移行
インフラについては基本的には都道府県が管理するべきである。それにより規模の経済が働き効率化を図ることができる。また、県が職員の採用主体となることで、技術職不足の解決も目指す。

窓口サービスについては、DX を進めることで、地域での対面サービスの必要性を限定的にすることができる。サービスの提供主体を都道府県に移譲し、広域で共通のシステムを導入することで徹底的に効率化を図ることを基本とするべきである。

ハード・ソフトのインフラの維持管理に相当する事務を都道府県に移譲する一方で、観光、文化振興など、地域のアイデンティティや成長に関係する機能については基礎自治体が担うことが望ましい。

すなわち基礎自治体は、インフラ管理や窓口サービスなどから解放される一方で、権限、財源、体制を適正規模に縮小する。都道府県は、権限、財源、体制を基礎自治体から継承し、規模の経済を働かせる中、効率的な行政経営を行う。なお、職員、議員、首長のなり手不足により行政及び議会の機能維持が困難となっている基礎自治体については、長期的には垂直補完からさらに踏み込んで都道府県への統合を検討する必要もあるだろう。

都道府県に近い権限を有する政令指定都市やそれに類する大都市については、都道府県と同等の権限を付与するともに、権限に応じた財源を持たせるべきである。足元課題とされている権限と財源の不均衡を解決するとともに、二重行政を解消する。これらにより、政令指定都市や大都市を都道府県と並ぶ立場にし、国と都道府県・政令指定都市及び大都市という二層構造を見据えた改革を行うべきである。現在、大阪府市や神奈川県下で議論が進んでおり、これらの議論の進捗に期待したい。

(3)官民が連携した人材確保と組織づくり
ハード・ソフトを問わず、インフラの縮小、再構築、DX においては、高度な技術を有する人材の確保と育成が不可欠である。高度な技術者なしには地域を維持できない。官単独での人材確保は容易でないことから、民間の力の活用が必要となる。民間からの高度専門人材の受け入れ、官民による合弁会社の設立、PPP/PFI の導入など、官民連携には様々な方法が考えられる。

他方で、官民連携においては、方法を問わず、官が責任を持つ体制整備が不可欠である。官が責任とリスクを負担する体制を構築する中、上手に民の力を活用する必要がある。

なお、この体制を構築するためには、人に対する適切な投資、すなわち公共版の人的資本経営の導入が必要となる。官と民それぞれが適切な役割を担う官民連携の体制構築が、これからの地域には必要となる

3.魅力の創造と地域経済のあり方~圏域(テリトーリオ)による事業創造
(1)歴史や地勢に根差した圏域による取り組み
地域の魅力の源泉である固有性は、歴史や地勢に基づくものであり、必ずしも現在の行政区分とは一致しない。固有性に磨きをかける時は行政区分にとらわれることなく、広域の「圏域」でまとまり柔軟に連携すべきである。圏域の捉え方はイタリアが食や文化のブランディングに取り組んだ際の「テリトーリオ」の考え方が参考となる。

魅力創造の分野では、基礎自治体による個別の計画策定(例:文化振興計画)や組織設立(例:観光協会)を止めるべきである。今後は圏域に着目して新たに計画を立て、実行する組織をつくり、資金調達して事業化を進めるべきである。

(2)圏域における基礎自治体の役割~サービスの提供主体から事業コーディネーターへの転換を
インフラ管理を都道府県や大都市が担うことで基礎自治体は魅力創造にリソースを集中させられる。「行政区分内で定型的行政サービスを提供する主体」から脱却し、「地域資源を生かした事業をコーディネートする主体」になることが望ましい。

魅力創造を牽引する個人や民間企業は、行政区分にとらわれない連携が可能である。同様に基礎自治体も、行政区分を越境して周辺地域と柔軟に連携しながら地域の事業を支援すべきである。

地元企業と基礎自治体の連携が不可欠である。基礎自治体は人的・経済的支援を行うほか、必要に応じてリスクを負う事業主体にもなれる。長期的な目線に立てば、基礎自治体は地方公共団体という枠組みの外に出て、地域の魅力創造を担う公益的な組織になることも考えられる。単年度主義や公共調達の制約から解放され、より機動的で柔軟に事業に参画できる可能性がある。

(3)地域経済を支える金融と人材
魅力を創造する事業に対してリスクマネーを提供する強い地域金融機関が必要である。また、事業を担う人材供給のためには経営の安定した高等教育機関も必要である。地銀や信金、大学の統合、それによる安定性の確保に危機感をもって取り組むべきである。

観光、農業、エネルギーなどの分野では地域外の資金やノウハウを呼び込める可能性がある。地域外の様々な主体との連携に取り組むべきである。また、人手不足解消のためには外国人の受け入れも不可欠である。

(4)地域による自律的な意思決定
上述の取り組みは地域にハレーションを生む可能性が高い。また、地域資源には偏りがあり、魅力創造の容易さや民間の投資意欲も地域によって差が生じる。

強い地域経済をつくるには、域内の地産地消とともに地域外との取引を追及することが必要不可欠である。どの産業で勝負するのか、どの地域に投資を呼び込むのか、その裏返しとして、衰退しうる地域はどこなのか。その現実を住民、地場企業、行政、議会等が直視して、自ら意思決定しなければならい。

地域の将来を自ら決め実現できることが地方自治であり住民自治の本質である。自律的に決め、多様な主体と協生する地域社会に向けて、いまこそ変革を開始するべきである。


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