ビューポイント No.2025-022
【自律協生社会シリーズ④】
人口減少時代に相応しい行財政運営と国民負担の再構築を
2025年10月07日 蜂屋勝弘
1.財政規律の手綱を緩めるな…求められる市場からの信認確保と不測の事態への備え
1990 年代以降の“失われた 30 年”の間、世界経済におけるわが国経済の相対的な地位は低下し、今なお低下し続けている。こうしたなか、巨額の政府債務を抱えるわが国の経済が成長を続けるには、投資先としてのわが国の魅力を一段と高めることが不可欠であり、財政面では、わが国の財政規律に対するマーケットの信認を獲得し続けることがこれまで以上に重要となる。
わが国の経済規模に対して、長期的に許容される持続可能な長期債務残高の規模は、極論すれば“誰にもわからない”。それだけに、野放図な財政赤字の拡大や債務残高の積み上がりを避けるとともに、財政健全化目標を設定し、財政規律の順守状況を評価・監視する機能を強化することは、先行きを正確に見通せない不確実な状況下において、必要最低限のリスク管理であろう。
将来的に相当な確率での南海トラフ地震の発生が予想され、足元では、風水害が激甚化している。こうした不測の大災害による人的・物的・経済的な被害を最小限にとどめ、復旧・復興に迅速に取り組めるよう、備えておかなければならない。社会インフラや防災機能の強化といった国土強靭化と並行して、いざという時に機動的かつ十分な財政支出が行えるよう、“財政強靭化”にも早急に取り組む必要がある。
賃金と物価の好循環が実現すれば、税収の自然増が期待されるため、財政健全化への追い風となる。しかしながら、今後見込まれる人口減少によって、わが国の経済成長が長期にわたって下押しされ続けかねない可能性を勘案すると、税収の自然増への過度な期待は禁物であろう。
2.厳しさを増す財政硬直化…限られた財源のメリハリある配分を
高齢化に伴う社会保障費の増加が今後も見込まれるなか、金利の上昇を受けて、財政硬直化が一段と厳しくなるおそれがある。生活基盤や経済基盤の整備のほか、新たな政策課題にも機動的に財源を配分し難くなり、結果として、現在および将来の国民生活や経済成長への悪影響が懸念される。財政硬直化の進行を少しでも抑制するために、社会保障費の増加抑制に向けた取り組みを強化するとともに、金利上昇リスクが高まるなか、債務残高の圧縮を通じて公債費の増加抑制に努める必要がある。
限られた財源の有効活用に向けて、歳出のメリハリづけが一段と求められる。EBPM の活用等によって、支出の配分のメリハリを徹底する。医療と介護のあり方を一体で見直す等によって社会保障給付の最適化を図るほか、老朽化した社会資本について必要度に応じた“トリアージ”の徹底等によって公共投資の選択と集中を図ることが重要である。
3.国民負担の再構築…資産を考慮した応能負担と高齢世代への負担のシフト
今後の中長期的な人口動態として、国民負担の主な担い手である若い世代が減り、社会保障の主な対象である高齢世代が増えることを踏まえると、国民負担のあり方の再構築が求められる。
高齢世代が多くの資産を有していることを踏まえ、高齢世代内での支え合いや、高齢世代が次世代を支えるとの構図を強く打ち出すとともに、これまで以上に資産を考慮した応能負担によって、若い世代に偏る国民負担の比重を少しでも高齢世代にシフトさせるべきである。
負担が若い世代に偏っている社会保険料を引き下げる一方で、消費税については、高齢世代も相応に負担している点を再認識する必要がある。
氷河期世代やひとり親世帯が陥りがちなワーキングプア対策として、給付付き税額控除は検討に値しよう。その際、①低所得世帯を対象とする制度(勤労税額控除)や、②低所得の子育て世帯を対象とする制度(児童税額控除)、などを同時に導入すること(ユニバーサルクレジット)も一案である。既存の所得控除(基礎控除や扶養控除)や社会保障給付の整理を並行して行うとともに、不労所得生活者や年金生活者等を対象外とし、公平性を保つために、勤労所得や資産所得、資産額をしっかりと把握する必要がある。
ガソリン税は、暫定税率を引き下げたうえで、ガソリン税のあり方そのものについても、今後の脱炭素に向けた炭素価格体系全体を踏まえて、再定義する必要があろう。
4.懸念される公務員不足…行政サービス提供体制の再設計
人口減少に伴う人手不足は民間企業だけの問題ではなく、行政の現場でも同様である。最低限必要な行政サービスを守るために、業務の民間委託などを通じて、行政機関が直接担うべき業務の取捨選択を進めるとともに、ICTやマイナンバーの活用による事務の一段の効率化が不可欠である。
また、不足する専門人材の育成に注力すると同時に、リボルディングドアの積極化によって、民間の専門人材を行政サービスの担い手として機動的に活用することも求められる。
地方行政においては、上記に加えて、近隣の市町村や都道府県と協力し、共同・広域で行政サービスを提供することで、限られた人材を有効活用することが、これまで以上に必要になる。将来的には、合併等の選択肢を残しつつも、まずは、行政サービスごとに最適な共同・広域化のあり方を模索することが求められる。
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