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JRIレビュー Vol.7, No.125

生物多様性クレジットの国内市場を育成する意義と可能性-地方創生の切り札として-

2025年06月30日 長谷直子


生物多様性の保全は、企業にとって事業の継続にかかわる重要な経営課題になりうるが、民間の資金が十分に投入されているとは言えない。生物多様性保全に資金を動員する仕組みの導入は喫緊の課題であり、その選択肢の一つとして、生物多様性保全活動の成果に金銭的な価値を付与する「生物多様性クレジット」が注目を集めている。

海外では生物多様性クレジットの取引事例があり、補償型クレジットと貢献型クレジットの2種類が存在する。補償型クレジットは、土地開発等によって失われる生物多様性を評価し同等の価値で補填するもので、開発の代償措置が義務化されている国での適用が進んでいる。一方、貢献型クレジットは、事業者の自主的な環境貢献を評価し取引するもので、オーストラリアで取引市場が開設されたところである。

日本では、複雑な生態系や生物多様性評価の難しさ、開発の代償措置の法的義務がないことから、厳密な同等性評価が求められる補償型クレジットの導入は容易ではない。日本における生物多様性クレジット導入の出発点としては、貢献型クレジットに注目し、企業の自主的な貢献を評価し取引する仕組みの導入を提案する。

しかし、貢献型クレジットは規制を伴わないため、購入側のインセンティブが生まれにくいという課題がある。インセンティブを創り出すための仕掛けとしては、例えば「企業版ふるさと納税」を活用し、地域で行われる生物多様性クレジット創出事業に企業が寄付を行うといったスキームが考えられる。企業側のインセンティブは税額控除のほか、地域社会、投資家からの評判の向上や、自治体をはじめとする地域のステークホルダーとの連携強化等が期待できる。

地域で生物多様性クレジットの取引スキームが実現できれば、後継者不在で耕作放棄地を抱えている農家や、整備者の不足により放置されている森林の所有者にとってクレジットが新たな収益源となり、衰退している第一次産業の活性化につながる可能性がある。

生物多様性クレジットは、地域特性を活かしたプロジェクトを通じて地域経済の停滞や過疎化の解消に寄与しうる。したがって、日本でも地方創生の新たな切り札として貢献型クレジットの取引制度導入を検討し、その成功事例を積み上げることが、持続可能な社会の実現に向けた重要なステップになると考える。


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