リサーチ・フォーカス No.2025-022 インドの自由貿易へのスタンスは転換したのか? 2025年06月20日 熊谷章太郎インドは2000 年代に各国・地域と積極的にFTA(自由貿易協定)を締結したが、2010 年代に入ると貿易赤字の拡大に対する懸念などを理由に保護主義的な姿勢を強めた。しかし、足元でインドは再び各国・地域とのFTA交渉を積極化している。一見すると、2020 年代に入り、インドの通商政策が自由貿易推進に大きく転換したような印象を受ける。しかし、①欧米や資源国など、近年貿易交渉が進展する国・地域との貿易自由化にインドはかねてから前向きであったこと、②中国や中国を含む広域の貿易自由化には引き続き慎重であること、を踏まえると、インドの貿易に対する基本スタンスは従来から変化していないと判断される。これまで停滞していた欧米や資源国との貿易交渉が足元で加速している理由としては、米中対立の激化、米国の相互関税の導入、インドの世界経済・政治におけるプレゼンスの高まり、などを背景に、双方が歩み寄る姿勢を強めたことを挙げられる。インドは様々な国・地域との貿易交渉を進めているが、今後、特に注目されるのは、①米国とのBTA(二国間貿易協定) 交渉、②EUとのFTA交渉、③ASEANとのFTA改定交渉、の行方である。インドと交渉相手国・地域はともに早期妥結を目指しているが、双方が求める貿易自由化の隔たりは大きく、貿易以外の問題も併せて協議されるため、合意に至るには大幅な妥協が必要になる。そのため、BTAやFTAが合意されるか否かといった表面的な成果だけではなく、適用除外品目や関税削減ペースなど、具体的な中身にも注目することが求められる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)