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Economist Column No.2025-022

「地方創生2.0基本構想」で示された反省と新たな視点

2025年06月19日 藤山光雄


2025年6月13日に、「地方創生2.0基本構想」が閣議決定された。昨年12月24日に新しい地方経済・生活環境創生本部が決定した「地方創生2.0の『基本的な考え方』」に続き、「当面は人口・生産年齢人口が減少するという事態を正面から受け止めた上で」という考え方が強調されている。基本構想の本文でも触れられているが、2014年に策定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、人口減少そのものを食い止める視点が前面に出ていたことを踏まえると、前提となる認識の大きな転換といえる。

■地方創生1.0の反省点
基本構想では、これまでの地方創生10年の取り組みにおける反省すべき点が列挙されている。具体的には、「子育て支援や移住促進などが中心となり、地方公共団体間での人口の奪い合いにつながった」、「出生率の地域比較が注目されたが、各地の出生数の大幅な減少に対して、より目を向けるべきだったのではないか」、「若者や女性にとって魅力的で、働きやすく、暮らしやすい地域づくりに向けた取組が十分になされなかったのではないか」、「地方公共団体が行う行政サービスに地域差・偏在が生じ、そのことが更なる一極集中を招いている」、「地方公共団体が地方創生に係る戦略や企画の立案の大部分を外部に委託し、当事者意識を持って主体的に取り組まなかった事例がある」、「地方創生交付金は、これまで、縦割り・単独事業が大半であり、小粒で補助金化していたのではないか」といった点が指摘されている。
これらの反省すべき点は、主に国や地方自治体の取り組みに対するものであるものの、地方が抱える課題を分析し、地方創生において取り組むべき施策を提言してきた我々も、考えさせられる部分がある。今後は、こうした反省に幅広い関係者がどう応えていけるかが重要となる。

■地方創生2.0の新たな姿勢・視点
さらに基本構想では、こうした反省を踏まえ、地方創生2.0の基本姿勢・視点が6つのパートに分けて記載されている。各パートでは冒頭で、「地方創生1.0では、~であった。地方創生2.0では、~していく。」と述べられており、地方創生1.0の取り組みと対比することにより、地方創生2.0では新たな姿勢・視点で取り組んでいくことを明確にしている。新たな姿勢・視点のなかで、いくつか興味深い記載を取り上げると以下の通りである。

・「地方公共団体の広域連携でその経済規模や事業規模を確保することが求められる」
ここでの広域連携への言及は、公共サービスやインフラの整備・維持管理において民間の参画を得るためという文脈ではあるものの、行政サービスの効率化やコスト削減を目的としたものだけでなく、地域活性化そのものに向けた取り組みにおいても、地方自治体の広域連携は重要な選択肢となり得る。地方創生2.0の政策の5本柱の一つとして掲げられている「広域リージョン連携」を推し進め、密度の濃い前向きな連携が各地域に広がっていくことが望まれる。

・「地方創生に取り組む際には、議論や検討の場に、若者や女性の参画を確保し、当事者である若者や女性の視点を取り入れることが重要である」
地方創生において若者や女性の視点を取り入れていくという点は、地方議会や行政組織、自治体の会議体、町内会などの本気度に左右される。そうした組織が積極的に取り組めば、若者や女性の意見を聞くこと、あるいは検討に参加してもらうこと自体のハードルは決して高くない。加えて、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)に陥らないよう、予断を持たず議論をまとめ、施策を実践して行けるリーダーの存在も不可欠といえる。

・「(好事例の普遍化で)肝要なのは、先進的な取組の成果を、そのまま他地域に模倣・移植するという『コピー』の考え方ではなく、それぞれの地域の特性や資源、課題に応じて柔軟に取り入れる『ローカライズ』の発想である」
優良事例の横展開という考え方は、政府の様々な施策で取り入れられている。しかしながら、現在は、そうした横展開が優良事例の紹介にとどまっていることが多い。本来であれば、そうした優良事例をローカライズしていくべきであるが、多くの自治体では、ローカライズを検討するためのヒトやカネの余力がない可能性がある。そのため、興味を持つ自治体へのローカライズの具体的なヒントの提供や、ローカライズしていくための人材やコストの国による支援なども必要となろう。

■国民的な議論の喚起を
地方創生2.0は、初代地方創生担当大臣を務めた石破総理の看板政策ではあるものの、物価高対策やトランプ関税対応などに注目が集まるなか、現時点で地方創生をめぐる議論は盛り上がりに欠ける印象がある。ただし、足元での地方経済の疲弊をみると、中長期的な課題ながら、喫緊に対策を講じなければならない課題といえる。今後、年末に向けて取りまとめが進む具体的な施策を記述した「総合戦略」、あるいは地方自治体の具体的な政策の検討をめぐり、若者や女性を含め、国民的な議論が喚起されることを期待したい。



※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。
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