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アジア・マンスリー 2025年6月号

消費拡大策を本格化させる中国

2025年05月29日 佐野淳也


中国政府は消費活性化に本腰を入れ、『消費促進特別行動計画』を今年3月に公表した。しかし、需要先食い政策や供給力拡大策が中心で、消費の持続的な活性化につながるかどうかは楽観できない。

■消費重視の姿勢を強めた中国政府
中国政府は目下、消費活性化に本腰を入れている。長引く不動産不況による内需の弱体化を踏まえ、個人消費の喚起で景気を下支えしようという判断が働いたとみられる。

中国政府が消費重視の姿勢を明確に打ち出したのは、2024年末の中央経済工作会議であった。 中央経済工作会議とは、共産党と政府が翌年の経済政策の方向性を決定する重要な会議である。会議では9項目の重点課題が打ち出されたが、その筆頭に「内需の拡大」が掲げられ、具体策として「消費の拡大」が明記されたことが例年と異なっていた。これは、消費拡大を重点課題の一番目に位置付け、中国政府が消費刺激に最も力を入れて取り組むという意思表明と解釈できる。ただし、どのような方策を講じるのか、中央経済工作会議では 具体的に示されなかった。

今年3月5~11日に開催された全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)では、消費重視の姿勢が中央経済工作会議よりさらに鮮明となった。全人代冒頭の政府活動報告では、2023年以降指摘し続けた需要不足の補足説明として「とりわけ消費が落ち込んでいる」という一文が追加された。各省庁や地方政府に消費低迷の深刻さを再認識させるためと考えられる。所得増と支出増の両面から消費拡大に取り組む方針を明記したことも、中央経済工作会議より踏み込んだ点として指摘できる。しかし、全人代においても、具体策についてはほとんど言及されなかった。

具体的かつ包括的な消費刺激策が打ち出されたのは、全人代終了後の3月16日に中国共産党中央弁公庁と国務院(政府)弁公庁の連名で公表された『消費促進特別行動計画』であった。これは8分野30項目からなる包括的な消費刺激パッケージである。この計画が目標に掲げたのは、消費を力強く喚起して国内需要を高めるため、所得の増加と負担の軽減によって消費力を高めること、良質の供給によって有効需要を創出すること、消費環境の最適化を通じて消費意欲を高めること、消費の制約となる問題点を解消すること、などである。内容は多岐にわたり、まさに中国版の「骨太方針」ともいえる消費刺激パッケージである。すでに各省庁や地方政府に対しては、消費促進特別行動計画に基づく様々な拡大措置を実施するよう指示が出されている。 その後、4月25日に開催された中央政治局会議で追加の消費刺激策が打ち出されるとの見方があったものの、28日に行われた記者会見は既報政策の確認に終始した。以上の経緯から、現在の中国政府の消費刺激策は消費促進特別行動計画が土台になっており、これを実現する方向で各種対策が随時講じられていくと予想される。

■消費刺激効果は不透明
今回の消費促進特別行動計画は、評価できる内容がいくつか含まれている。例えば、出産・子 育てや教育への支援拡大は、可処分所得を増やして消費を押し上げる可能性がある。年金・医療・介護など社会保障面の充実も、時間がかかるとはいえ、将来不安の低減を通じて個人消費の追い風になろう。もっとも、今回打ち出された計画を総合的にみると、疑問点も少なからずあり、持続的な消費拡大につながるとみるのは早計であろう。 その理由として、大きく分けて三つの問題点を抱えていることが挙げられる。

第1に、メリハリに乏しいことである。様々な分野にわたって数多くの施策が盛り込まれているものの、あまりにも広範・多岐に及んでいるため、どの分野が消費拡大策の重点か、外部からは理解しづらい。各項目の施策をみても、大半は過去にどこかで打ち出された施策の再掲であり、新規性のある施策は少ない。

第2に、目玉とされる耐久消費財の買い替え補助金による押し上げ効果が限定的とみられることである。この政策では、超長期特別国債の発行で3,000億元を調達し、これを耐久消費財の買い替え時の補助金に充てている。確かに、足元の耐久財消費はこの買い替え補助で多少の上振れがみられる。しかし、補助金を増額してもなお、中国の家計消費(2023年は51兆元)の1%にも満たない金額であるため、消費全体への押し上げ効果は限られよう。さらに、買い替え補助政策は将来需要の先食いであり、効果減衰とともに反動減にも直面することになる。

第3に、依然として供給側を重視した政策が多いことである。今回の消費促進特別行動計画の冒頭でも「良質の供給により有効需要を創出」と掲げられているほか、もう一つの目玉政策ともいうべき「サービス消費」の分野でも供給力強化を目指した政策が多く並んでいる。国民のニーズに合わないサービスの大量供給は、 財分野と同様に供給過剰を招きかねない。

以上から、今回の消費促進特別行動計画は、足元で大きく落ち込んでいる消費を持続的に喚起する有効打に乏しいと判断される。 耐久消費財の買い替え補助金によって一時的に消費が持ち直す可能性はあるものの、中長期の観点では消費不振から脱するのは難しいと思われる。


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