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JRIレビュー Vol.7, No.125

住宅の地震対策促進に向けた横断的支援の必要性 -危機意識の醸成による地震対策促進を-

2025年05月27日 籾山嵩


現行の設計基準に基づき要求される耐震性能を満足する住宅の比率である「耐震化率」は、2023年時点において全国で約90%となっており、2003年の75%に比べて着実に増加している。しかし、地域や住宅の形態によって耐震化率にはばらつきがあり、2024年能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県の珠洲市や輪島市では50%程度であったことが被害の増加に繋がったとされる。さらに、中古住宅・リフォーム市場の活性化が推進されるなかで、長期的には住宅の劣化に伴う耐震性能の低下が顕在化する可能性がある。これには新築時に耐震設計基準を満たした建築物も含まれる。南海トラフ地震をはじめとする大規模な地震の発生が予期されているわが国では、住宅の地震対策の推進が喫緊の課題となっている。

内閣府の調査によれば、耐震補強工事の実施予定がない主な理由として、「必要性や効果を実感できない」という心理的な課題と、「費用がかかる」という費用に関する課題が挙げられる。とくに心理的な課題に関しては、地震発生時に被害が「生じなかった理由」は不明瞭で、情報や記録も残りにくいため実感を得にくい点が問題を根深くしている。住宅の地震対策を促進するには、住宅の耐震性能不足への危機意識を客観的な根拠に基づき醸成したうえで、対策費用を下げる仕組みやビジネスの社会実装を進め、地震対策の敷居を下げる必要がある。

心理的課題の解決には、必ずしも専門知識を有していない住民に地震対策の必要性を実感してもらうため、客観的に対策の効果・必要性を示すべきである。例えば個々の住宅の耐震性能に影響を及ぼす躯体の劣化状況を反映したFEA(有限要素解析)等の解析技術を活用して、地震対策の有無による住宅の被害想定を可視化することが効果的と考えられる。費用に関する課題の解決には、住宅の地震対策を行うことによる住宅の価値の向上を金銭的なメリットに転嫁する仕組みが必要である。例えば、個々の住宅の劣化状況や地震対策状況に応じてより細かく地震保険料を設定する仕組みや、住宅が集まることにより生まれる地域の街並みの景観や機能、観光資源としての価値を起点に防災投資を呼び込むことも考えられる。

住民や住宅の管理者が地震対策を行う場合、必ずしも知識が十分でない状況下で、耐震診断から工事完了まで複数のプロセスを経なければならず、不安を抱えながら様々な事業者や行政機関等とコミュニケーションを図る必要がある。このような課題に対して、本論では各プロセスを横断的に支援するプラットフォームビジネスを提案する。住宅の地震対策に資する技術・商品を保有している事業者がプラットフォームに参入することにより、ユーザーは多様な技術・商品を活用してワンストップで地震対策を進めることができ、事業者はユーザーとの適切なマッチングを図ることができる。また、プラットフォームでユーザーの住宅のデータを一元管理することで、各プロセスにおいてそのデータを共通して活用することができるだけでなく、その分析に基づく住宅の耐震性能低下予測など、新たなビジネスが展開される可能性もある。


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