リサーチ・フォーカス No.2025-011 年金改正法案が理解されない理由 ―マクロ経済スライドの調整期間一致を検証する― 2025年05月20日 西沢和彦年金改正法案について、与党内で議論が重ねられてきたが、2025 年 4 月 17 日に厚生労働省から自民党に示された案では、法案唯一の柱として残されていた「報酬比例年金と基礎年金のマクロ経済スライド調整期間の一致」が削除された。調整期間一致は、今後大幅な低下が見込まれる基礎年金の給付水準底上げを狙ったものであった。削除された理由は、厚生労働省によれば「十分な理解が得られなかった」ためであるという。もっとも、調整期間一致自体は、断念された訳ではなく、野党のなかからは政策として評価する声も出ており、国会審議でも争点となるであろう。本稿は、調整期間一致の概要について整理した後、理解が得られていないとすれば、その理由を考察した。調整期間一致とは、給付抑制を図る仕組みであるマクロ経済スライドの適用期間が報酬比例年金は 2026 年度と短期であるの対し基礎年金は 2057 年度と超長期にわたる状況を是正し、2036 年度での一致を目指すものである。その本質は、2004年改正で導入されたマクロ経済スライドが当初目論んだようには機能してこなかった失敗のリカバリーであり、世代間の公平、および、世代内の垂直的公平に資する。理解が得られていないとすれば、主に次の理由が考えられる。(1)マクロ経済スライドが 2004 年改正で導入されて以降機能不全となっていながら対応を怠ってきた不作為に関する総括の不在。(2)そもそも年金制度が複雑であり、調整期間一致の理解にたどりつけない。(3)厚生労働省は、「厚生年金積立金 65 兆円の1階への重点活用」を通じ調整期間一致を図ると説明するが、実際に行われる財政運営とは異なるうえ、「積立金の流用」との批判を招いている。(4)調整期間一致は、基礎年金の給付水準底上げという目的がまずあり、それを実現するための飽くまで後付けの方法であることが否定できない。(5)底上げには、国庫負担の増加も不可欠であるが、肝心の財源について言及がなく、国民が是非を判断する材料に欠ける。今後の議論の鍵を握るのは、政治とりわけ与野党の合意である。なぜなら、人口減少下の年金改正は負担増と給付減を避けることが出来ず、かつ、複雑な年金制度の幅広い理解のためには、これまでの政府・与党の説明を根本的に改める必要があるためである。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)