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Economist Column No.2025-012

米中関税戦争が一旦休戦-世界経済の景気後退リスクは低下するものの、不透明感は払しょくされず

2025年05月13日 石川智久


■米中で関税戦争が一旦休戦
米中両国は5月12日、追加関税を90日間、相互に115%引き下げる共同声明を発表した。これによって、米国は中国に対する関税率を145%から30%に、中国は米国に対する関税率を125%から10%に引き下げることとなった。依然として高い水準ではあるものの、大幅に引き下げられたことで、米中貿易戦争及び世界関税戦争は一旦休戦したともいえる。関税に関する当社予測のメインシナリオは「中国に対して100%以上、メキシコ・カナダに対して25%、その他すべての国・地域に対して関税率10%」というものであり、それを前提にすると2025年の世界経済の実質成長率は、好不況の分かれ目と言われる3%をやや下回る見通しである。仮に、今回の引き下げを90日経過後も継続することとなれば、世界経済の成長率は3%を少し上回るとみられる。つまり、景気後退リスクはかなり小さくなり、このこと自体は好ましいことと言える。

■不透明感はまだ払拭されず
しかしながら、依然として不透明感が全て払しょくされたとは言えない状況である。今回は米政権内の経済重視派が巻き返したことで、関税率が引き下げられたが、米国内で米国第一主義への支持が強いなかでは、政権内の権力争いの行方次第で再び関税率が引き上げられる可能性は引き続き燻っている。90日後に再度関税が引き上げられた場合、その失望は世界の金融市場を揺るがし、その結果、世界経済が景気後退に陥る可能性を高めることは必至である。

■米国の関税戦争は長期戦となる恐れ
また、米政権が90日後に関税を引き上げなかったとしても、中長期的に関税を引き上げていくような保護主義的な動きを続ける可能性は否定できない。例えば、日米貿易摩擦を振り返っても、米国は1970年頃の繊維交渉から始まり、自動車、半導体とターゲットを変えつつ、わが国がバブル崩壊で国際競争力を低下させるまで通商圧力を加え続けた。トランプの米国も、安保や経済面で米国の地位を脅かす国が無くなるまで、世界に圧力をかけ続ける可能性がある。

■米国に振り回されない経済構造の構築を
わが国にとって米国は同盟国であり、引き続き良好な関係維持は必要である。しかしながら、米国は自国の利益を最優先する姿勢を明確にしており、米国への依存度が高いままでは、その一挙手一投足に振り回される状態が続くであろう。こうしたなか、世界各国では様々な面で米国への依存度を低下させると同時に、経済的威圧を加えない国々で連携することへの関心が高まっており、そのリーダーとしてわが国への期待が高まっている。わが国としては、この状況を奇貨として、欧州やグローバルサウス等との連携を強化するなど、貿易・投資相手国の多角化を進めていくことが重要である。
足元でのトランプ政権による各国との合意の動きを見て、安易に警戒モードを解くことは避け、わが国政府・企業としては、米国が再び強硬姿勢に転じるリスクも考慮に入れて、対策を講じていくべきである。



※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。
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