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JRIレビュー Vol.6, No.124

わが国におけるソーシャルツーリズム(ST)の可能性

2025年05月09日 高坂晶子


わが国では、コロナ禍からの観光再興に伴って宿泊費等関連コストが著しく上昇する一方、日本人の実質賃金はマイナスが続き、消費の足かせとなっている。節約志向や将来不安も根強く、人々が観光行動を手控える「観光離れ」が一部でみられる。

日本人の観光離れが定着した場合、①インバウンド依存による日本人観光市場の弱体化、②観光に対する社会の好感度の低下、③特質ある観光資源の毀損・喪失、が懸念される。そもそも、優れた観光資源を自国民が享受できない状況は健全とはいえず、日本人の観光離れを防ぐため、ソーシャルツーリズム(以下、ST)、すなわち「観光の機会に恵まれない層に対し、観光・旅行へのアクセスを改善するための条件や社会環境を整備する」取り組みが必要である。

わが国でも、高度成長期の公共滞在施設整備、バブル期のリゾート開発など日本人向けの観光支援策が行われた時期はあるが、2003年の観光立国宣言以降、政策の重点はインバウンド誘致に移りつつある。日本人市場の重要性を踏まえ、インバウンド対応を進めつつも、相応の政策資源をST施策に投じることが必要である。

ST先進国であるフランスの場合、1930年代以降、社会政策を積み重ねて充実した観光支援制度を実現している。同国の現在のST施策は、①休暇取得の義務化等の法的措置、②金券の配布や優待、割引等の財政支援、③長期休暇中の子どもの受け皿や低廉な滞在施設等の環境整備、を柱としている。

多面的で精緻なフランスの施策に倣い、わが国でも観光を阻害する様々な要因(バリア)に細かく対応したST施策が必要である。とりわけ、コロナ禍以降旅行意欲の減退が目立つ高齢層、思うように休みが取れない子育て世代、コロナ禍で旅行機会を奪われ、経験値の乏しさから消極性が目立つ若年層向けの対策が求められる。ただし、直接給付は必ずしも社会の支持が得られるとは限らないので、観光したい人々の背中を押すような支援策と環境整備に注力することが得策である。

もう一点留意すべきは、STが社会・経済に及ぼすメリットを「見える化」したうえ、それが高まるような観光支援策を立案し、観光事業者をはじめとする関係者の参画と協力の下に実行していくことである。例えば、閑散期の宿泊費等を割り引く優待措置によって新たな需要を喚起し、観光地・事業者の収益アップと需要の平準化を図る、等が考えられる。


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