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Economist Column No.2025-005

日本総研の研究員が考える大阪・関西万博 <Part2>

2025年04月10日 村上芽渡辺珠子橋爪麻紀子篠田周


2025年4月13日から、大阪において55年ぶりの万博(大阪・関西万博)が開幕する。本コラムでは、8人の日本総研の研究員が考える大阪・関西万博について、Part1・2に分けて紹介する。

■創発戦略センター チーフスペシャリスト 村上 芽
「誰にでもある人権を行動基盤に」― 人口減少を強みに変える意思と行動 ―

55年前の1970年万博の時、88歳の曾祖母の車いすを40歳の大叔母が押している姿に「万博は若い人だけのものではない」という見出しがつけられて新聞に載った。
1970年に65歳以上が人口に占める割合は、7.1%だった(注1)。80歳以上は0.9%しかいなかった。2024年には、65歳以上が29.3%、80歳以上でも10.4%に達する。
2025年からさらに55年先の2080年に推計される(出生低位・死亡中位)の人口は6,979万人、15歳未満が7.1%で65歳以上が44.6%である(注2)。
子どもたちがグループで賑わっているような写真は、2080年には今よりもずっと珍しくなるに違いない。その110年前に車いすの高齢者が珍しかったように。
万博というお祭りを前にこんな将来を想像すると、やや暗い気持ちになるのは否めない。しかし万博が掲げる「いのちかがやく」や、「SDGs」の観点からすると、寿命が延びて誰でも長く活き活きできること、また、持続可能な資源やエネルギーの利用ができることは人口減少を強みに変える意思と行動が何より重要だ。
強みに変えるため必要なのは、意思決定や行動の基盤に人権を据えることである。人権というと、日本ではなんとなく「輸入された概念」という受け止め方がされてきた。輸入された概念をうまく自分のものにして伸ばしていくのが日本の得意技である。だからこの際、2080年もそれ以降も、自由で元気な国であるために、「誰にでも、人権がある」ということを行動基盤にする、そのきっかけに万博がなればいいと考える。

(注1)総務省統計局2024年9月15日発表資料 統計トピックスNo.142「統計からみた我が国の高齢者」
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics142.pdf
(注2)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要」P52参考表2。2071年以降は長期参考推計という位置づけ。
https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp2023_gaiyou.pdf

■創発戦略センター シニアスペシャリスト 渡辺 珠子
 「非日常と日常の差分から何かが生まれるか」

大阪・関西万博がいよいよ今年開催される。前回日本で万博が開催された2005年の愛・地球博には実家が会場から近かったこともあり、3回ほど足を運んだ。アメリカ館の解説員が乗っていたセグウェイ、長久手日本館の360度全天球型映像システムで感じた地球や宇宙の映像への没入感など、先端技術を使った様々な展示やショーは何度見ても心躍ったし、近い将来この技術が当たり前に使われる世の中がくることを感じられてわくわくした。大阪・関西万博でも様々な最先端技術など世界の英知を見て、実際に触れることに対する個人的な期待感は大きい。しかし2005年当時は会場に行かなければ見ることができなかった技術や展示物も、今では動画サイト等で簡単に視聴できるしVR上で疑似体験できる時代だ。大阪・関西万博もバーチャル会場が設けられ、遠くからもVRデバイスで万博を楽しむことができる。そんな中、改めて万博会場に直接足を運ぶ意味は何だろう。
一つ言えることは、結局のところ実際に来場しないと感じられないものがそこにあるということだ。驚きや強い印象はもちろん様々な展示物からももたらされるが、私たちはその場にいる人の反応で感じ方が変わることが多い。また実際に来場するからこそ、会場の中という非日常と外という日常の差分を感じやすくなるのではないか。個人的には万博会場の中は私たちの生活や私たち自身の未来を考える良い機会だととらえている。万博会場の外という日常に戻ってきたとき、この差分を踏まえて未来に何かを働きかけたいという内発的な動機が生まれるか。自分自身がどう感じるのかが今から楽しみである。

■創発戦略センター シニアマネジャー 橋爪 麻紀子
「ワクワク、ドキドキが未来の原動力」

今回「私と大阪万博」という題で、有志チームのメンバーで寄稿することに決まったとき、自分自身がまだ大阪万博は他人事に感じている、ということがわかった。豪華なプロデューサー陣による「いのち輝く未来社会のデザイン」のテーマ事業もそれぞれ洗練されていて興味深いし、世界の最先端技術がどのようにSDGsの達成という社会課題の解決に寄与できるのか、といった点も気になる。それにも拘わらず、これだけの大規模なイベントなのにまだ高揚感がない。直近、複数の自治体や企業が、大阪万博に対する関心度調査等を実施しているが、総じてまだ関心が低いといった結果が多いという。関心度の低さの一因は、万博の中身よりも土地や建設費の問題といったややネガティブな周辺報道が多かったこともあるかもしれない。
それでも大阪万博には行こうと思っている。その理由は単純で子どもが行きたがっているからだ。東京に住んでいても、公共施設や企業展示スペース等で大阪万博やミャクミャクのオブジェを見つけると、こどもはふらっと立ち寄り、頭からかぶったり写真を撮ったりしている。直近では、大阪万博の大屋根リングが完成・点灯したニュースを見て「すごい、でかい、これどこにあるの、見に行きたい」と騒ぐ。大人の視点では、建設資材の高騰で騒がれた時期もあったこと等を思い返したが、こどもの視点では、その規模やデザインを前にして、純粋にワクワクしている。この反応だけでも会場のシンボルとして成功なのだと思う。
直近の国際イベントでは、2020東京オリンピック・パラリンピックが記憶に新しい。パンデミックの影響で制限開催となり、当時小学生になったばかりの長男が楽しみにしていた競技の観覧は中止、ひどくがっかりしていた。それでも、都内の選手村へ足をのばし、出入口ゲートの柵に張り付いて選手の出待ちをしたい、ということで何度も子どもを連れていった。テレビやネットで映っている選手が、現実に間近で見られるということだけで、ドキドキしているようだった。
80年代生まれの私の記憶は断片的で曖昧だが、85年の科学万博つくばの後、年の離れた兄弟が興奮していたことや、当時のキャラクターグッズとともに万博の余韻が家の中にしばらくの間残っていた。詳細は覚えていないのに、朝早くに家族で家を出発し、渋滞の中を車で進み、行列に並びながらもワクワクしていたことだけを思い出す。
子どものころにワクワク・ドキドキしたことは、その対象が何であっても、詳細がなくても、大人になって覚えている。そういう気持ちが未来に繋がっていくのだと思う。大量の情報がありすぎて、感覚が鈍った大人のフィルターを外して、子どもと一緒に純粋に楽しみに行きたい。

■調査部 理事 篠田周
「楽しくなければ万博じゃない!」― 今、改めて問う万博の意義・価値 ―

1970年の日本万国博覧会(大阪万博)に足を運んだ読者がどれほどいるだろうか。当時6歳だった私は大阪万博の詳細を覚えているわけではない。それでも「万博」と聞くと、息苦しいほどの人込みと圧倒的な熱気を今もまざまざと思いだす。
実体験から大阪万博を定義すれば、「万博」はある意味お祭りであり、楽しいものであった。また、米国の月の石やソ連(当時)のスプートニク号など、海外旅行が稀な時代に(注3)、万博に行けば、そうした海外の技術や成果を直接目にすることが出来、未来への想いが自然と沸き起こるものであった。いずれにせよ、海外への憧れ、最先端技術を直接目に出来るということが、「大阪万博」の熱気に繋がったのだと思う。
しかし、現在、多くの人々が海外旅行に出向き、居ながらにしてネットを通じて世界の状況を知ることが出来るなかでの「万博の意義」は何だろうか。21世紀の万博は、参加国がテクノロジーなどの国力を誇示する従来の「国威発揚型」から、地球全体でみる「課題解決型」に移行したと言われており、それは正しい認識だと思う。また「万博はテーマパークとは違う」という意見も耳にする。本当にそうだろうか。
楽しそうだと皆が思い、実際に万博に足を運ぶ。そして展示や催しもの、多くの人々との出会いを通じて、10年、20年、さらにその先のBeyond SDGsの世界や課題について楽しみながら実感し、その解決の可能性に思いを馳せる。これこそが現代の「万博の真の意義・価値」なのではないだろうか。
「楽しくなければ万博じゃない!」。体感してこその万博だと私は考える。

(注3)1970年のわが国の総人口は初めて1億人を超え1億372万人、海外への出国者は663,467人(人口の0.64%)。2024年の総人口は1億2,359万人、出国者は1,301万人(人口の10.53%)。なお、コロナ禍影響前の2019年を見れば、総人口は1億2,373万人で出国者は2,008万人(人口の16.23%)(出所:総務省・人口推計、出入国在留管理庁・出入国管理統計表、観光庁・出国日本人数)。





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