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ビューポイント No.2025-002

トランプ関税を貫く思想と変貌する米国 ―雇用と減税による支持基盤重視、軽視されるマクロ経済・外交安保の安定―

2025年04月09日 福田直之


第2次トランプ政権は、「米国第一主義」を先鋭化させ、全ての国に一律 10%の基本関税を課し、貿易赤字の大きな国・地域別に相互関税を加える通商政策を展開している。この政策は単なる貿易赤字是正にとどまらず、国内製造業の復興と安定、外資企業の工場誘致、雇用の創出、関税収入を原資とする減税といった多目的な戦略を兼ね備えている。経済・財政・政治の各分野を横断する形で、米国の経済構造を再編しようとする再工業化政策の中核に据えている。

ドナルド・トランプ大統領や J.D.バンス副大統領ら政権中枢の人物は、関税を単なる貿易手段ではなく、国家の主権と経済的自立を回復する象徴的政策と位置づけている。バンス氏は「国外で生産すれば罰せられる」と明言し、国内回帰を促す制度的誘導策としての関税を強調している。他国に負担を強いたうえで自国経済を第一とする経済ナショナリズムに基づき、関税によって米国製造業とラストベルト地帯など支持層を意識した中間層の復権を図る構想が前面に出ている。

理論面で支柱の一角をなしているとみられるのが大統領のアドバイザーの CEA 委員長スティーブン・ミラン氏だ。彼の考え方は基軸通貨ドルに対する過大な国外需要が経常赤字と産業空洞化を引き起こしてきたとする構造的分析に立脚している。関税を通じて外国に税負担を転嫁しつつ、インフレを抑制できるという「通貨オフセット」理論を提示している。この考え方は、関税を国家財政と通貨戦略の双方を担う政策手段とするものであり、通商と金融の接合点に立脚した枠組みである。

こうした通商政策は、自由貿易体制と多国間協調を原則としてきた戦後国際秩序に対する構造的な挑戦である。トランプ政権は同盟国にも例外なき関税を課す方針をとり、グローバリズムからの決別を鮮明にしている。雇用や減税といった支持基盤固めに集中する一方、マクロ経済や外交・安全保障へのしわ寄せが見逃されている。政権の目論む米国の復興につながるのか、それとも競争力低下と国際貿易の混乱を招き、結果的に中国の相対的な台頭を許すことになるかは不明だが、国際経済秩序に与える影響は極めて大きい。


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