JRIレビュー Vol.5, No.123 「こども基本法」と企業-子どもの権利を尊重した企業行動を求める規定への見直しを- 2025年04月03日 村上芽日本の少子化は想定されていた以上の速さで進展しており、「少子」と人口減少を前提とした社会づくり、そのための覚悟と行動がますます求められている。一人ひとりがその能力を十分に発揮しやすい社会環境を作ることが必須であり、人権に向き合い直し、社会は権利のある主体によって構成されているという認識が必要である。この「権利のある主体」には子どもも含まれることに着目し、豊かな国づくりの基盤として取り組むべきである。世界では、196カ国が批准する子どもの権利条約をもとに、子どもの権利を尊重する潮流が大きくなっている。さらにビジネスがそれを後押しする動きも広がり、様々な取り組み事例がみられるようになった。欧州に限らずアジアでも事例は見られ、また、食品などの子どもの衣食住に密着した業種だけではなく、金融セクターにも広がりを見せている。日本においては、こども基本法が2023年に施行されたが、まだその理念に関する認知度が低い状態にある。国民の間に限らず、政府内でも浸透していないことの一例として、個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)の「いわゆる3年ごと見直し」の中間整理における、「こどもの個人情報等に関する規律の在り方」の説明と、EUの一般データ保護規則(GDPR)の比較を行った。国連「ビジネスと人権作業部会」は、2024年5月に発表した前年の訪日調査の最終報告書で、「子どもの権利全般、特にビジネスが子どもの権利に及ぼす影響に対する理解が低い」と指摘した。この指摘の背景について、企業のステークホルダーから子どもの権利に包括的に取り組むべきとする要請がなかったことを、国・自治体、消費者・NPO、従業員、投資家・ESG調査機関の視点から分析した。また、教育システムと企業の求める人材像の観点から、今後の求職者に想定される変化を指摘した。デジタル社会の進展とともに、企業と子どもとの間の距離が変化しており、従来のように子どもの周りには保護者や教育・福祉サービス提供事業者がいるだけではなくなっている。こうした社会の変化を踏まえ、こども基本法において、企業に対し、現行の第六条が求める「必要な雇用環境の整備」にとどまらず、製品・サービスやコミュニケーションを含む経営全体を通じて子どもの権利を尊重すべきことを謳った規定への見直しを提言したい。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)