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JRIレビュー Vol.5,No.123

地方財政の硬直化と財源問題 -求められるミクロとマクロ双方の視点-

2025年03月31日 蜂屋勝弘


今後のわが国財政は、社会保障費が引き続き増加するもとで、金利上昇に伴う利払費の増加が懸念される。地方財政においても同様であり、財源配分の柔軟性が一段と損なわれることで、地域のインフラ整備や地域振興等を含め、地域住民全体にとって最適な行政サービスの提供がさらに困難になる恐れがある。

地方財政の柔軟性を表す指標として「経常収支比率」が公表されているが、地方自治体が提供する「標準的な行政サービス」と「独自の行政サービス」が区別されていない点に注意が必要である。経常収支比率が同程度の場合、見かけの財政硬直化の度合いは同程度ながら、税収の多い自治体の方が、自らの裁量を活かせる財源自体は多い。

地方財政全体の経常収支比率は92.8%(2023年度)。経常的な収入である一般財源のほとんどが、経常的に支出される経費に費やされており、財源配分を柔軟に動かす余地は乏しい。今後を展望すると、高齢化に伴う社会保障関係費の増加持続に加え、金利の上昇を受けた利払費の増加が予想され、地方財政の硬直化の進行が懸念される。

自治体の規模別や財政力別の経常収支比率からは、地方の財源における硬直化以外の課題も見えてくる。第1は、普通交付税の配分の問題である。経常収支比率が低くなりがちな小規模自治体では、実態よりも多めに見積もられた一般財源が十分に活用されず、結果的に積立金になってしまっている可能性が疑われる。

第2は、地方税の地域間偏在である。財政力指数が1を超える税収の多い地方自治体の経常収支比率が低くなる傾向があり、これについては、当該自治体の財政の柔軟性が高いと前向きに評価できる反面、地方税の地域間偏在を受けた行政サービスの地域間格差の存在を示唆。地方分権や地域の自律の観点からは、“公平な”姿とは言い難い。

地方財政の硬直化の進行に対し、普通交付税や臨時財政対策債の積み増しといった短絡的な対応は好ましくない。普通交付税については、現状の国の厳しい財政状況を勘案すると、その財源となる国税の自然増を超える増額には限界。臨時財政対策債については、地方の債務残高が積み上がることで、元利償還のための公債費の増加を通じて、地方財政の硬直化の一段の進行や長期化につながりかねない。

地方分権や地域社会の自律を重視しつつ、財政硬直化の進行に対処するには、行政の広域化やICTによるコスト抑制に加え、地方交付税の配分の見直し、地方の課税自主権の一段の活用が求められる。


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