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JRIレビュー Vol.4, No.122

経済安全保障により拡大する技術移転規制 -重要となる対象の選別と企業のルール形成参画-

2025年03月21日 福田直之


中国は国家安全保障の観点から、自国企業によるサプライチェーンの「自前化」を目指しており、他国からの「自律性」と他国を依存させる「不可欠性」を獲得しようとしている。ただ、中国には先端半導体や電子デバイス、素材などの分野における技術が不足しており、自力で研究開発をしているほか、ありとあらゆる手段で外国から技術を習得しようとしている。サプライチェーンの自前化が完成すると、その生産力と相まって、過剰生産となった製品が世界を席巻し、他国のライバル企業に大きな圧力となる。

これに対し、中国を脅威ととらえた第1次トランプ政権は、対中関与政策を転換し、経済と安全保障を連関させ、中国企業に相次いで制裁を実施して中国との技術覇権争いを始めた。バイデン政権も対中輸出規制や重要物資のサプライチェーン再構築に関して日本などと連携し、国内産業の支援を通じて中国に対する優位性を高めようとした。日本も近年、相次いで経済安全保障関連の立法や法改正を繰り返している。一方、中国はアメリカの規制に対抗し、経済的威圧の発動を制度的に担保する法律を整備するとともに、自前化が進んだ領域では技術流出対策もとっており、獲得した優位性を維持しようとしている。

各国とも国家安全保障の名のもとに、輸出規制の対象を広げているが、経済安全保障政策においては自由貿易とのバランスが大切である。重要技術の流出を防いで自国の優位性を保つことができれば、中国を相手に製品を売って稼ぎ続けることは可能となる。経済安全保障と自由貿易は対立概念と考えられがちであるが、経済安全保障を徹底すれば自由貿易の果実を享受できる期間が長くなる。

日本は自国企業のサプライチェーン上でどこに優位性があり、どこを守る必要があるのかを分析する必要がある。そのうえで日本企業が持つ自律性と不可欠性を維持できるよう、日本独自の技術流出規制を精緻化していくべきである。また、中国から経済的威圧を受けた場合も、日本が不可欠性を持つ分野が多ければ多いほど、対抗措置がとりやすくなる。そのためには、中国とビジネスを行う企業が主体的に政府と連携を強める必要がある。

2国間交渉を好むアメリカ第一主義の第2次トランプ政権は、バイデン政権が友好国との多国間連携で精緻化した対中経済安全保障政策に逆行する政策をとる恐れがある。日本は、同政権がディールの結果、対中規制緩和に動いた場合、懸念を伝える必要があろう。


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