JRIレビュー Vol.3, No.121 長期雇用慣行の現状と求められる施策 2025年03月07日 井上恵理菜本稿では、日本の長期雇用慣行について、その現状を把握し先行きを展望したうえで、求められる施策を提示する。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」やリクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」から長期雇用者比率をみると、以下の2点が明らかとなる。第1に、長期的にみれば長期雇用慣行は弱まっている。第2に、大卒で初職が大企業の男性においては、足もとで長期雇用慣行は一定程度残存している。長期雇用慣行には、①企業による人的投資が促進される、②長期雇用の対象となった労働者の雇用が安定する等のプラス面がある一方、①産業構造の変化に対応した人材登用が難しい、②長期雇用の対象とならない労働者の雇用が不安定になる、③長時間労働を引き起こしやすい、等のマイナス面もあり、功罪相半ばする。長期雇用の先行きを展望すると、労働者の属性の多様化により、長期雇用慣行の対象となり得る労働者の割合が低下し、長期雇用慣行による雇用の安定という利益を享受する人よりも、雇用の不安定という不利益を被る人の方が多くなるとみられる。さらに、若者の長期雇用に対する見方が変化しており、長期雇用慣行が弱まる兆しがみられる。長期雇用慣行が先行き徐々に弱まるとみられるなか、そのプラス面とされてきた企業による人的投資が減少していくことは避けられない。そこで、公的な人的投資の拡充が必要となる。公的な人的投資を効率的に実施している例として、スウェーデンの高等職業教育(YH)がある。YHは以下の2点で優れており、今後の日本での公的な職業訓練の拡充に際しても参考とすべきである。第1に、年齢に関係なく、可能な人はすべて就労するという理念のうえに教育訓練が成り立っている点である。これは、構造的な労働力不足にある日本が労働力を増やし、その質を高めるために重要な視点である。第2に、労働市場のニーズに合ったプログラムの策定を行っている点である。この点も、日本が財政再建と両立させながら、費用に見合った効果のある人的投資を実施するために欠かせない。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)