日本の貿易はトン数ベースで99%以上海上輸送に依存している(※1)。四面を海で囲まれている地理的環境から、自動車や鉄道といった陸上輸送への代替性はない。国民生活を維持するうえで、海上輸送の確保の重要性は論を待たない。そこで本稿では仮にその確保に支障が生じた場合、まず影響を受けることになる外航海運に焦点を絞り、その対応に関する考察を行いたい。なお、事態発生の可能性を対象とした分析は取り扱わない。
現在の外航海運とりわけコンテナ船は、ハブ・アンド・スポーク方式をとっているといわれ、ハブ港どうしを結ぶ幹線と、ハブ港とそれ以外の港を結ぶ支線を航行している。アジアのハブ港はシンガポール、中国各港、釜山等であり、日本の港は支線先に位置付けられている。シンガポールなどのハブ港からコンテナ船が日本各地に向かう際、その多くが台湾の東西のバシー海峡と台湾海峡を通過していることになる(※2)。

地図出所:株式会社平凡社地図出版 / ROOTS製作委員会
ルート参考:日本船主協会「SHIPPING NOW 2024-2025」を参考に日本総研作成
国際環境の変化によって仮に両海峡の航行ができなくなった場合、外航海運はどのような対応をすることになるのだろうか。2023年11月以降の紅海における事態を参考に検討してみる。推移は下表の通りであり、紅海北部に位置するスエズ運河の通航量は2023年5月のピーク時と比較し2024年1月には40%以上減少し(※3)、う回路となったアフリカ大陸南端の喜望峰経由の航行が増加した。

脚注資料(※4.5.6.7.8)を参考に日本総研作成
以下は、外航海運関係者への聞き取りをベースに、紅海における事態の際に生じた変化と諸条件を加味し、バシー海峡、台湾海峡の航行が出来なくなった場合の外航コンテナ船に想定しうる対応である。外航コンテナ船は、海上コンテナを輸送する定期航路の主力となる貨物船である。
【当初】
事態発生直後はすぐさま通航や寄港の停止といった判断はとりづらく、事態の様子を見つつ様々なルートの情報を総合考慮し情勢の烈度を見極め、関係者と協議を実施
【一定時間経過後】
滞留していた荷物をさばききった後は、定期航路を維持するほどの荷物が集まるか(※9)の視点をベースに、運賃と保険料、燃料費の最適解を設定し(※10)、国家間の諸問題による事態であれば制裁(※11)を考慮し、航路と寄港地を決定。例えば、シンガポール海峡以東は、ボルネオ島西岸、バラバック海峡、スールー海を抜け太平洋に入る航路が一つの代替として考えられる。
本稿で想定においたコンテナ船は、ばら積み船やタンカーと比較して生活に密着した食料品や日用品を輸送している(※12)。事態発生直後は、両海峡が航行できなくなったとしても国内に一定の在庫はあるだろうが、不安感から少なくも一時的には買いだめなどが起こる可能性がある。どの程度の期間で事態が収束するかによって、代替策の位置づけや種類も変わってくるだろう。
外航海運業は、事業に関するリスクとして地政学リスクを認識し経営課題として対策を検討している。その中でも、代替航路の選択肢を考慮しておくことは不可欠である。その選択肢が現実に機能するためには、日本政府に加え各国政府との連携も必要になるだろう。平時からこうした連携や検討が行われ、それが関連産業や政府関係者にも理解されておくことが望ましいと考える。
(※1) 国土交通省海事局「海事レポート2024」
(※2) 日本海事センター「SHIPPING NOW 2024-2025」P4-5の日本と世界を結ぶ海上ルートを参照
(※3) UNCTAD” Navigating Troubled Waters Impact to Global Trade of Disruption of Shipping Routes in the Red Sea, Black Sea and Panama Canal” Unctad Rapid Assessment February 2024

(※4) BBC「Who are the Houthis and why are they attacking Red Sea ships?」16 March 2024

(※5) 独立行政法人日本貿易振興機構「イエメンの武装組織フーシ派の商船攻撃で、紅海上の海運が混乱」

(※6) 独立行政法人日本貿易振興機構「フーシ派、紅海でトルコ船舶を攻撃」

(※7) 日本郵船株式会社「当社運航自動車専用船 Galaxy Leaderの拿捕について」

(※8) OCEAN NETWORK EXPRESS ” Preventive Measures for Navigation in the Red Sea”

(※9) 国土交通省「海運会社(コンテナ船)からみた水先制度コメント」

(※10) 独立行政法人日本貿易振興機構「イエメンの武装組織フーシ派の商船攻撃で、紅海上の海運が混乱」

(※11) U.S. Department of the Treasury” U.S. Treasury Designates Russian State-Owned Sovcomflot, Russia’s Largest Shipping Company” Press Releases February 23, 2024 米財務省が露国営海運企業に対して制裁を実施
(※12) 商船三井「製品輸送」

日本郵船「定期船事業」

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。