日本総研ニュースレター
持続可能な流域をつくる「流域総合水管理」
~一元的な水運用で資源・インフラを最大活用~
2024年11月01日 石川智優
豪雨、渇水……水に関わる災害は激甚化と頻発化が進む
気候変動の影響による災害は年々激甚化と頻発化が進んでいる。今年の夏も各地で豪雨による甚大な水害が発生し、多くの命が奪われ、生活基盤が失われるなど深刻な事態をもたらした。一方で、例年よりも雨量が少なく、渇水で取水制限が行われた地域も少なくなかった。
また、9 月に能登半島を襲った豪雨による被害は、今年元日に起きた大地震の影響によってより大きなものとなった。
「流域総合水管理」政策への進化
水害や渇水による被害が顕在化する中で、水インフラの耐震化や代替水源の活用も大きな課題となっている。また、CO2 排出量の削減目標を達成するためにも、水力エネルギーの利活用への期待は大きい。さらに、人口減少やライ フスタイルの変化によって、水需給バランスも変化しており、流域の多様な関係者による総合的な水管理が求められる状況にある。
政府はこれまで、流域全体で関係者が連携して治水に取り組む「流域治水」政策を推進してきた。加えて、治水と利水の目的別にダム容量を管理するだけでなく、事前放流を通じて治水機能を強化しつつ水力発電も促進する「ハイブリッドダム」の取り組みも進めてきた。
今後はこれらの施策に加え、流域単位での水力発電増強や上下水道施設の再編による省エネルギー化を図り、流域で治水とカーボンニュートラルを両立させる「流域総合水管理」政策を推進する予定となっている。8 月30 日に開催された第 7 回水循環政策本部会合では、これらを盛り込んだ新たな水循環基本計画が閣議決定された。
流域全体の水や森林、インフラ、人材を最大限に活用
日本総研でも、主催する産官学連携によるコンソーシアム(「流域DX 研究会」(2022~23 年)および「流域 DX 事業化検討コンソーシアム」(2024 年~))の活動として、流域総合水管理を推進するための検討を続けている。 コンソーシアムでは、流域総合水管理を実現させるには、①脱炭素投資の促進、②流域資源の共有、③官民協働による流域管理の 3 つの視点が欠かせないとしている。
①は、流域全体でカーボンニュートラルを目指すものである。最新の観測技術や予測技術を導入し、関係者間での連携を強化することで、ダムなどのインフラを最大限に活用し、水力発電の最大化を図る。
②については、流域に存在する水や森林、インフラ、人材といった資源を関係者間で共有し、コスト削減を図りながら持続可能な流域を作り上げることが重要である。非常時にはインフラ間で水を融通し、地下水を代替水源として活用するほか、森林整備で生じた間伐材をバイオマス発電に活用したり、小水力発電を導入してエネルギー効率を向上させたりすることも有効である。
③については、国や自治体、住民、企業などが連携して、治水、水利用、環境保全に一体的に取り組むことで、水害の最小化と水資源の最大活用が可能となる。各種施設や機能を統合的に活用し、流域全体での総合的な管理を行う ことが肝要である。
このように流域総合水管理は、流域全体で水運用を一元的に管理し、関係者間での連携を強化しながら柔軟に水を運用することで、気候変動への適応力と緩和力の両立を目指す仕組みとなっている。
先進モデル構築からの展開に期待
流域総合水管理の推進には、各流域で関係者と対話しながら具体的な取り組みを行うことが重要となる。流域ごとに異なる状況や関係者の特性を考慮しながら、まずは一つの流域で先進的なモデルを構築し、それを全国に展開していくべきである。
筆者が特に注目しているのは、愛知県で推進されている
「矢作川・豊川カーボンニュートラルプロジェクト」である。このプロジェクトでは、矢作川
と豊川の流域において再生可能エネルギーの導入や森林保全、カーボンオフセットを通じて CO2 排出削減を目指しており、例えば、ダム運用高度化による水力発電増強や、水インフラ施設再編による省エネの推進、遊水地などの公共空間を活用した太陽光発電などに取り組んでいる。今後、流域総合水管理の先進モデルとなることが期待されている。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。