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インパクト評価のためのロジックモデル作成の留意点

2025年02月12日 渡辺珠子


 近年、企業のインパクト評価に対する関心が高まっており、自社事業のロジックモデルを作成する企業も増えている。ロジックモデルは事業が誰にどんな変化をもたらし、その結果として環境や社会全体がどう良くなるのかを論理的に表すことができる。そのため、財務面以外で生み出しうる変化(=事業成果)を計るだけでなく、第三者に伝えやすくなるという利点がある。また環境や社会にもたらしうるネガティブな変化も同時に検討できるため、事業計画上のリスク対策などにも役立つ。
 日本総合研究所では、これまでスタートアップを含む様々な企業やNPO法人に対し、インパクト評価の実施支援や、ロジックモデル作成に関する研修を提供してきた。筆者も2019年からの5年間で100件以上のロジックモデル作成を支援してきた。その結果、ロジックモデル作成において企業が陥りやすい点にはいくつかの共通項が見えてきた。本稿では代表的な2つの留意点を紹介したい。

①アウトカムに「主語」があるか
 ロジックモデルは主に以下の4つの要素で構成される。作成者は、これらの構成要素を書き出し、それらを合理的につなぎ合わせることで、変化を説明する。
 •投入(インプット):事業活動を行うために必要な資材・資金など
 •事業活動(アクティビティ):目的達成のための取り組み・事業
 •事業活動の結果(アウトプット):事業活動の結果
 •環境・社会変化(アウトカム):上記結果によって事業活動の対象者やその他関係者、地域社会などに生じる変化
 しかし実際に作成に立ち会うと、書き出されたアウトカムには「誰が変化するのか」「何が変化するのか」など主語がないものが多い。
 例えばある自治体が地域の環境保全を目的として、NPO法人と協力して地域住民向けにリサイクルキャンペーンを打ち出したとする。この場合のアウトカムとしてありがちな例は以下の通りである。
短期的なアウトカム:環境意識の醸成、ごみの分別強化
中期的なアウトカム:リサイクル活動の推進
長期的なアウトカム:持続可能な地域社会の実現
 確かにリサイクルキャンペーンを見た地域住民の何割かに環境意識が醸成され、ごみを正しく分別するようになるかもしれない。これは短期的なアウトカムの主語を「地域住民(個人)」と解釈した場合だ。ところが「リサイクル活動の推進」となると主語を地域全体と捉える人もいるだろうし、引き続き地域住民(個人)が主語かもしれない。主語がないとロジックモデルを見た人によって解釈が異なり、キャンペーンを実施した自治体やNPO法人の意図が正しく第三者に伝わらないという結果に陥りかねないのだ。インパクト評価を行おうとすると、人によってデータの取得対象の考え方が異なり、うまく評価できない可能性もある。少なくとも関係者間で意図が正しく伝わっていることを確認するために、アウトカムを書き出す際には必ず主語を含めることを推奨したい。

②アウトカム同士のつながりが「変化」を表現できているか
 ロジックモデルを作成した当人の頭の中では問題なく説明できていても、第三者が見るとアウトカム同士のつながりが不明瞭である場合がある。例えば上記のリサイクルキャンペーンのアウトカムでは、
 「地域住民に対ししてリサイクルキャンペーンを行うと、地域住民(個人)の環境意識が醸成され、またごみの分別が強化される。その結果、地域全体でのリサイクル活動が推進される。」
という変化の連鎖を想定していると考えられる。これを以下のように言い換えてみよう。
 「地域住民に対ししてリサイクルキャンペーンを行うと、環境問題を以前より意識するようになった住民が増え、また以前よりも地域全体で分別されていないごみ量が減る。その結果、地域全体でのリサイクル率が以前よりも向上する。」
 これはインパクトを評価することを前提に、変化を量的に捉えられるように表現を修正したものである。この書き換えを行うことで、「地域全体で分別されていないごみ量が減れば、すなわち地域全体でのリサイクル率が以前よりも向上する」と果たして言い切れるのか、別のアウトカムを見落としているのではないかという意識が働きやすくなる。アウトカム同士のつながりに抜け漏れがないかをチェックし、つながりの合理性を検証する際には、アウトカムを量的な変化として表現し直すことをすすめたい。

 本稿ではロジックモデル作成における代表的な留意点を2点紹介した。これらは1人もしくは同じ事業部など仲間内で作成すると気づきにくいため、作成する際には第三者から客観的な意見をもらいつつ進めることも推奨したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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