RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.25,No.95
脱炭素時代のオーストラリアの資源・エネルギー輸出戦略
2025年01月24日 熊谷章太郎
脱炭素と脱中国依存を軸とする世界のサプライチェーン再編にとって、オーストラリアの資源・エネルギー輸出動向は重要な要素である。この理由としては、①オーストラリアは、EV(電気自動車)や太陽光・風力発電装置など、脱炭素に必要な製品に使用される資源を豊富に有していること、②現在、オーストラリアから輸出される多くの資源が、精錬・加工コストの低い中国を経て各国に供給されていること、を指摘できる。オーストラリア政府の目指す資源・エネルギー輸出の方向性としては、以下の2点を挙げられる。
第1に、環境対応を通じた資源・エネルギー産業の高付加価値化である。オーストラリア政府は、環境負荷の少ない手法による資源の採掘・精錬・加工事業の発展を促すことで、鉱業と製造業の競争力を高めようとしている。その実現に向けて、先行き重要性を増すと見込まれる分野への補助金政策を含む「重要鉱物戦略」や「Future Made in Australia」、再生可能エネルギー由来の水素の製造拡大を目指す「国家水素戦略」を策定するなど、構造転換に向けた施策を相次いで打ち出している。
第2に、輸出先の多様化である。現在、オーストラリアの輸出は中国を中心とする東アジアに偏重しているが、政府は輸出先の多様化を見据えた外交を活発化させている。政府は、技術開発力が高く環境対応製品の早期普及が期待される先進国との関係強化や、中長期的に資源・エネルギー需要が増加し続けると見込まれるASEAN諸国やインドとの貿易・投資自由化を経済外交の重要テーマとしている。
オーストラリアが資源・エネルギー産業の構造転換を進める際に直面する課題としては、国内の資源の精錬・加工コストの高さや、ASEAN諸国・インドによる中国の需要の代替余力の乏しさを指摘できる。オーストラリアの資源・エネルギー輸出構造の転換に向けた取り組みの成否は、各国で環境負荷の高い方式による資源の精錬・加工やそれを用いた製品の使用に対して適切な規制が講じられるかや、中国からASEAN諸国・インドへの製造業シフトがどの程度進むかなど、外的要因にも左右されると見ておく必要がある。
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