オピニオン
スマート農業を活かした新たな農業観光モデル
2024年12月24日 三輪泰史
これからのわが国の農業を支える技術として、IoT・AI・ロボティクス等を駆使したスマート農業が注目されている。本年の食料・農業・農村基本法改正において、スマート農業がこれからの農業の重要な柱として盛り込まれるとともに、技術開発と普及の加速のため、10月には新たにスマート農業促進法が施行された。
自動運転トラクター、農業ロボット、農業用ドローン、生産支援アプリ等、さまざまな商品・サービスが実用化され、まだ普及初期ではあるものの、全国各地でスマート農業を活用して成功をおさめる農業者が台頭している。農業人口(基幹的農業従事者)が今後20年ほどで約1/3まで減少するとの試算もあり、高効率なスマート農業無しにはわが国の農業は成り立たないといっても過言ではない。
これからの農業の核となるスマート農業だが、その可能性を農業生産分野だけにとどめるのはもったいない。スマート農業を活用した新たなモデルとして、ここでは“スマート農業×観光”の可能性について考察しよう。
地方での観光で人気を集めているのが、フルーツ狩り等の農業体験・農業観光だ。美味しい農産物を堪能できるだけでなく、自然に触れることによるリラックス効果や、子どもの自然教育・環境教育の機能も高く評価されている。一方で、都市部の住民が遠方の農業地域に頻繁に行くことは難しく、現地での観光が1回限りになってしまう点が課題として指摘されている。日帰りの短時間の観光では体験できる内容は限定的であり、地域に落ちるお金も少額にとどまる。そこで、スマート農業を活用することで、“現地に行けない時でも農業・農村とつながっている”状況を作り出し、経済的、社会的インパクトを飛躍的に増加させることがポイントとなる。
現在の技術で既に実施可能なモデルとして、遠隔モニタリング機能を活用した農業観光モデルがある。例えば子どもが田植え体験をした稲をドローンのカメラや圃場センサーで自宅から観察して成長を見守り、秋になると自らが見守ってきたコメが最終的に宅配で自宅に届くというサービスを構築すると、単発の農業体験という“点”が“線”につながった状態に変わる。(もちろん日々見守る中で、稲刈りも現地に行きたいとなればいっそう良い)
さらに、近い将来にはスマート農機を遠隔操作できるようになり、都市に住みながら農作業の一部を行えるようになると考えられる。遠隔操作(農業者のサポートのもと)により、スマート農機で田んぼを耕したり、ドローンで肥料を播いたりと、「都市部に住んでリモートで農村部の農作業を行う」という新たなライフスタイルが生まれ、就農に関心はあるが、子どもの学校や親の介護などにより都市部を離れられない人でも部分的に就農できるようになるわけだ。
デジタルトランスフォーメーションの観点で言えば、農業現場にスマート農業が入ることにより、さまざまな変革を引き起こすことができる。スマート農業を農業生産だけでなく農村全体に活用していくモデルの創出が、農業振興と地方創生の鍵の一つとなる。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。