オピニオン
「主語」を使い分け対話によって「ありたい未来をつくる」
2024年12月24日 山本健人
日本総研には「研究員」が所属する部門が3つある。本稿では、そのうちリサーチ・コンサルティング部門と創発戦略センターの違いと共通点、2つの部門がある意味について、双方を経験した筆者の目から紹介する。
リサーチ・コンサルティング部門は、文字通り官公庁や企業に対しコンサルティングを提供する部門である。当社ホームページ上の部門紹介においても、斬新かつ現実的なソリューションを提供すること、多様なニーズに最適な解を提供し、お客さまの継続的な成長に貢献すること、変革に取り組むパートナーであることが謳われている。
創発戦略センターは独自のコンセプト提示から事業化までを一貫して担い、次世代社会・市場を創発・実装する部門である。当社ホームページやパンフレット上の部門紹介においては、ありたい社会像を提唱すること、研究会やコンソーシアムを立ち上げ、課題解決のソリューション創出を促すための検討や実証を行うこと、次世代への想いを同じくする人が集まる共創の場を運営し、新市場創出の起点となるモデル事業・新会社などの立ち上げを推進することが謳われている。
それぞれの部門紹介の文面を見ても方向性の違いを読み取ることができるが、双方に所属し活動をした身としても、両者においては活動における「主語」が大きく異なることを感じた。
リサーチ・コンサルティング部門においては、顧客の課題解決や継続的な成長のための支援を行うことがミッションであるため、相手のニーズが最大の優先事項となる。相対する1社、すなわち「あなた」の目指すものは何かを徹底的に追求し、実現のための道筋を立てることが必要となるため、所属している研究員は、実直に粘り強く考える傾向が強いと感じる。
創発戦略センターにおいては、社会の課題に着目し、それを解決する社会像や事業のコンセプトを提唱、賛同を確保することが第一のステップとなる。そのため、関係する極めて多様なステークホルダーへアプローチをしながら自身のコンセプトを紹介することになる。場合によっては相反する関係者複数のニーズにぶつかり、お断りされることもあるが、コンセプトに本気で賛同していただけるステークホルダーを集める。そこで、「我々の」目指すものの実現に向けた会議体を立ち上げ、検討や実証を進める。
筆者は、両部門を兼務し、高齢者のセルフマネジメントを向上させる対話AIサービスの活用方策に関する共創の場の立ち上げに向けた賛同者を得る段階においては、コンサルティング部門では考えられないほど多くの企業・団体の方と対話をした。もちろん賛同を得られないことも多々あったが、どのような点を訴求すれば賛同いただけるのかを振り返るプロセスは、ありたい姿の軸をぶらさないように内容をブラッシュアップするために不可欠だった。所属している研究員は、自身のコンセプトについて軸をもち、周囲を巻き込み進める推進力の高い傾向にあると感じた。
ここまで両部門の違いを記したが、両部門はともに「次世代起点でありたい未来をつくる」という共通のパーパスの下にある。しかし、我々は要素技術を保有しているわけでもなければ、生産設備を持っているわけでも、販売網を持っているわけでもない。頭数も「未来をつくる」には到底足りていない。他のステークホルダーを介することが未来をつくるには必要不可欠である。そのため、研究員は、どちらの部門に所属していても対話に重きを置く傾向が強いと感じる。
こう考えると、活動の「主語」の違う両部門が連携をしながら社会や顧客に対して働きかけができることが、当社の大きな強みである。目前の顧客の有する課題と、短期ではない中長期の課題、双方の取り組みが可能であることが、当社が「未来をつくる」ために有する能力なのだ。両部門に兼務した経験と、これらの強みをもって、当社として目指すありたい未来への取り組みを進めていく所存である。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。