JRIレビュー Vol.3,No.121 国民負担の在り方を考える 2024年12月03日 蜂屋勝弘わが国の国民負担率が過去最高水準に達するなか、その負担が国民の間でどう配分されているかについては、不明な点が多い。本稿では、わが国における国民間での負担の配分状況や、諸外国における国民負担率の現状を把握し、わが国の国民負担の今後の在り方を考察する。足元(2021年)の国民負担のうち個人負担が約62%、企業負担が約32%を占める。これまでの世界的な潮流として、法人所得への課税が軽減され、個人の労働所得や消費への課税が重くなる傾向が続いてきた。わが国も例外ではなく、2003年度から2021年度にかけて、個人の税負担率が6.3%ポイント上昇したのに対し、法人所得課税の負担率は2.1%ポイントの上昇に止まっている。個人負担の分布を所得階層別にみると、所得上位20%の高所得層が、個人負担の49.3%を負担している。税目別にみると、所得上位20%層の負担割合が最も高いのは所得税の72.9%で、最も低いのは消費税の33.9%。同じく世帯主年齢別にみると、全世帯の62.2%を占める65歳未満が75.5%を負担。税目別にみると、所得税と住民税、社会保険料の負担の大半が65歳未満の年齢層に偏っているのに対し、消費税はおおむね年齢別の世帯分布に応じた負担配分。資産階級別の分布をみると、資産額上位20%の世帯が勤労世帯で全体の27%、無職世帯で同40%と、資産額上位20%世帯が保有する資産額の割合(勤労世帯で59%、無職世帯で69%)を大幅に下回る。これは、国民負担の大半がフローの所得額や消費額に基づいて課されるため。OECD諸国のデータを用いて、国民負担率の水準とその内訳や政府支出の内訳との関係を比較考量すると、国民に負担を課す際に各国が重視する点として、①国民間で広く負担を配分、②受益と負担の関係と所得再分配、③国際的な租税競争の影響、が確認される。国際的にみると、わが国は「低めの中負担国」。政府支出については、社会保障が比較的大きいとの特徴。他方、国民負担率については、①「消費課税」と「個人所得課税」の負担率が低い、②「社会保険料」の負担率が「高所得国」よりも高い、③「法人所得課税」と「資産課税」の負担率が高い、との特徴が指摘可能。以上を踏まえると、将来のわが国の国民負担においては、国民間での広い負担配分を大前提としたうえで、①消費課税を個人負担の柱としつつ、②適度な個人所得課税で相応の累進度の確保を図る。また、富裕層への課税の検討では、「結果の平等」に加え、「機会の平等」にも目配りした議論が不可欠で、負担水準等に関する国際的な合意形成が重要となる。法人税は財源として従来よりも期待できるものの、税率の引き上げには、各国の動向を見極める必要があり、むしろ、企業間での税負担の不公平の解消や広い負担の実現を図る必要がある。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)