リサーチ・フォーカス No.2024-047 休暇分散をめぐる新たな動き~自治体が主導する学校の試み~ 2024年11月25日 高坂晶子わが国の観光は、インバウンドを軸とした再興が順調な半面、アウトバウンド(日本人の海外旅行)の回復の遅れが目立つ。こうしたなか、国内旅行にシフトする日本人が増え、特定時期に観光需要が集中する弊害が改めて問題視されている。観光需要の集中は観光庁設置以前から指摘されてきた問題であり、2010 年代初めには、民主党政権が全国を 5 ブロックに分けてGWの時期をずらす大掛かりな対策を打ち出した。しかし、社会活動に与える影響の大きさ、性急な進め方等が災いし、社会各層が強い抵抗感を示したことから、実現には至らなかった。これに対し、最近になって、地方から観光集中を打開する動きが始まっている。愛知県では、親子が共に過ごす時間を確保しつつ平日の観光需要を増やそうと、県と市町村が学校休暇の見直しに取り組んでいる。具体的には、①11 月 27 日の「あいち県民の日」の前後に、学校単位で、平日を学校教育法上の「体験的学習活動等休業日」に指定する「県民の日学校ホリデー」、②親が休暇を取れる日程に合わせて生徒が体験学習を行う場合、登校しなくても欠席扱いされない「ラーケーション」、の 2 つである。こうした愛知県のチャレンジに追随する自治体も現れつつある。自治体発の取り組みは、おおむね社会の支持を得ている。愛知県では保護者の半数以上がラーケーションの取得に前向きな意向を示し、経済界も県民割引や特別イベントの提供、あるいは有給休暇を取りやすい環境作りといった協力に前向きである。効果については、2023 年の「県民の日学校ホリデー」に指定された平日に、愛知および近隣県を観光した県民が 20~30%増えたとの調査結果がある。新旧の取り組みに対する社会の反応が異なる理由として、以下の3点が考えられる。①近年の働き方改革により、有給休暇の取得に対するハードルが低下傾向にある、②民主党政権は、祝日の日取りを全国一斉に動かそうとしたが、自治体の場合、学校単位の休日や家庭単位の校外学習など、柔軟な休み方を追求している、③自治体発の取り組みは、地域社会の固有ニーズに根差している。例えば、有名温泉地やリゾートを抱える自治体では、一般の休日に休みにくい家庭が多く、親子で過ごす時間の確保が課題であるため、ラーケーションの導入に積極的である。観光集中の緩和は、生産性向上や優秀な人材の確保といった、わが国の観光産業が抱える課題解決に大きく寄与する取り組みである。今後、多くの地域が固有事情に即した休日を工夫することで休みが分散化し、わが国全体として観光集中が緩和に向かうことが望まれる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)