コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2024年10月号

中国長期金利急落、発展途上の金融政策が一因

2024年09月30日 野木森稔


中国では長期金利の急低下が問題視されている。中国の金融政策は改革の途上にあり、長期金利の動きに影響を与えることが困難であることがその一因である。

■国債価格が急騰、人民銀行は国債売り介入を開始
中国の長期金利が急速に低下している。9 月 24日には 10 年物の利回りが 2%に達し、過去最低を記録している。背景には、不動産市場の不振などを受けて景気悪化への懸念が高まっていることに加え、民間への貸出を絞っている銀行が余剰資金を国債投資に振り向けていることがある。3月の全人代では、防災インフラの整備など景気支援を目的とした1兆元の超長期特別国債発行計画が発表された。超長期特別国債の発行時期にあたる本年5~11 月は長期金利の上昇圧力が高まることが予想されたが、金融機関などによる国債需要の高まりが金利上昇圧力を打ち消している。本年 5 月に上海と深センの証券取引所に 30 年物超長期特別国債が上場した際には、初日に買いが殺到したため、それぞれの取引所で売買停止措置が 2 回も発動された。

中国人民銀行(PBOC)は、国債市場で価格の上昇が行き過ぎているとし、警戒を強めている。仮に、国債価格が急反落することになれば、金融機関をはじめ投資家に巨額の損失が生じるとともに、急激な金利上昇が経済全体に悪影響も及ぼす恐れがある。PBOC は口先での警告を続けていたが、7 月 1 日、ついに公開市場操作(オペ)で国債を借り入れると発表し、借り入れた国債を市場で売却することによって需給緩和を目指す姿勢を示した。1997 年(試験的運用)と 2007 年(中国投資公司(CIC)の設立のため発行した国債を購入)以外は行われていなかった中央銀行による国債市場への直接介入に踏み切った形である。9 月 10 日の報道では、中国国債の取引が急増しており、PBOC による国債売り介入が拡大している可能性を伝えている。

■金融政策改革は道半ば、長期金利の動きの制御は依然難しい
中国の国債市場では、市場参加者は活発な売買を行っているものの、市場の価格発見機能が適切に作用しているとは言い難い。名目金利は理論上、実質長期金利(≒実質期待成長率)と期待インフレ率とリスクプレミアムの和となり、リスクプレミアムが大きくない局面では、名目 GDP成長率に近い数値となるはずである。しかし、多くの先進国とは異なり、中国では長期金利と成長率の乖離が大きい。2006 年以降、長期金利は名目 GDP 成長率を下回る傾向があるほか、名目GDP 成長率は年間 2.7%~23.1%と激しく変動してきたのに対し、10 年債利回りは 2.1~4.8%(日次ベース)と狭いレンジで推移するなど、長期金利の変動幅は相対的に小さい。

こうした傾向は、PBOC が金融政策運営で窓口指導を主軸とし、銀行貸出に働きかける手法を重視してきたことも影響していよう。先進国中心に多くの国では、政策金利として短期金利を操作し、その動きが自律的に長期金利に波及するメカニズムが機能している。しかし、中国の場合、金融政策の主なツールとして「7 日物リバースレポ」と「1 年物中期貸出制度(MLF)」によるオペがあり、前者の金利は短期金利に連動する一方、後者の金利は「事実上の政策金利」と位置付けられている最優遇貸出金利(LPR)を変化させることで実際の貸出金利を変化させるとともに、間接的に長期金利に影響する、という複雑な仕組みとなっている。今の仕組みでは、短期と長期の金利は分断され、市場で自然なイールドカーブ形成がなされにくい。発展途上にある金融政策が国債市場の効率性を損なっていると言える。

こうした状況を受けて、PBOC は近代的な金融政策運営に向けた取り組みを進めている。7 月 8 日、PBOC は翌日物の臨時資金調節オペを導入し、翌日物レポ、翌日物リバースレポの金利(それぞれ 7 日物リバースレポ金利の▲0.2%と+0.5%)を金利のコリドーとすると発表した。これは短期市場金利の安定を図るとともに、MLF 金利と LPR に代わって 7 日物のリバースレポ金利を起点とした政策運営に舵を切り、金利操作による期間構造への波及メカニズムをより重視する意思の表れとされている。しかし、これだけでは金融政策の改革は道半ばである。貸出金利を重視した現行の政策体系は変わらず、長期金利の動きに影響を与えることは難しいと考えられる。

■デフレ懸念と量的緩和への期待をどう見るべきか
中国では、経済がデフレに陥るとの懸念が高まっていることから、市場では量的緩和開始への期待が高まっている。2024 年 3 月、習近平主席は昨年 10 月の金融会合で「PBOC は公開市場操作で国債の取引を徐々に拡大しなければならない」と述べた、と報道された。もっとも、現在の PBOCは長期金利の下がりすぎを問題視しており、量的緩和を実施する気配はみられない。仮に大規模な国債買い入れを実施したとしても、国債の価格発見機能が乏しい中国の市場では、出口における長期金利の急激な変動などが経済へのリスクとなる可能性もある。

9 月 18 日に米国が 0.5%の利下げを実施し、中国でも金融緩和の余地が広がり、24 日、PBOCは各金利と預金準備率の引き下げを発表した。しかし、利下げにより国債市場の過熱が一段と高まることへの警戒感が強まり、PBOC は緩和姿勢をさらに強めるのは難しい。今後、金融政策による景気浮揚効果が期待できない状況が続けば、国内景気はさらに苦境に陥る恐れがある。

(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ