株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門は、上場企業3,231社(プライム&スタンダード市場)における役員33,452人(※1)のジェンダーバランスについて実態調査(2024年度版)(※2)を行った。
□目次
1.役員における女性役員数および比率
2.役員の年齢階層別人員構成
3.社長の女性比率
4.社外役員の職業背景(コアコンピタンス_バックグラウンド)
5.地域区分別の女性役員比率(本社所在地ベースの調査)
6.社外役員の兼務状況(兼務先企業はプライム&スタンダード市場)
7.業種別の女性社内・社外役員の任用バランス
注:本レポートの図表はすべて筆者作成である(紙面の関係上、個別の図表に明記していない)。
□調査結果
1.役員における女性役員数および比率
・役員33,452人のうち女性役員は4,350人(役員に占める女性比率は13.0%)であった。うち、プライム市場では役員18,472人のうち女性役員は3,037人(16.4%)、スタンダード市場では役員14,980人のうち女性役員は1,313人(8.8%)であった。プライム市場の女性役員比率はスタンダード市場のおよそ2倍に達する。政策効果が現れていると言える。
・女性役員4,350人のうち、社内役員(※3)は615人(社内役員に占める女性役員比率は3.4%)、社外役員(※4)は3,735人(社外役員に占める女性役員比率は24.1%)であった。うちプライム市場の社内役員は334人(3.5%)、社外役員2,703人(30.0%)であった。スタンダード市場の社内役員は281人(3.3%)、社外役員1,032人(16.0%)であった。両市場とも育成・キャリア形成に時間を要する社内役員よりも、外部労働市場から招聘してくる社外役員から女性役員の任用が進んでいる。(図表1-1)
・女性役員比率に関してプライム市場では構成比率10~20%レンジが最も多く714社(43.6%)、スタンダード市場では0%が最も多く632社(39.6%)であった。(図表1-2)
・プライム市場では構成比率0%および0%超~10%未満レンジが低下した。つまり女性役員0人の企業や1人の企業が減少した(図表1-3)
2.役員の年齢階層別人員構成
・プライム&スタンダード市場の女性役員4,350人のうち、最も多い年齢層は60-64歳の1,021人。男性役員も同様に60-64歳がもっとも多く7,811人である。年齢階層別男女比率では女性役員が多い年齢層は40-44歳の28.0%と約3割近い。(図表2)
3.社長(※5)の女性比率
・プライム&スタンダード市場における社長(女性)は39人(1.2%)であった。(図表3)
4.社外役員の職業背景(※6)(コアコンピタンス_バックグラウンド)
・女性の社外役員に関して、学者・大学関係の構成比が男性の2.6倍程度、弁護士の構成比が男性の2倍程度と、外部労働市場でクオリティーが認証される職業からの任用が進んでいることがうかがえる。もう1つの特徴として絶対数は少ないが、その他の比率が男性に比べて高いことが挙げられる。著名人や、伝統的な社外役員の職業背景としてカテゴライズされない新しい職業背景をもった方の任用が男性に比べて顕著に多いとみられる。(図表4)
5.地域区分別の女性役員比率(※7)(本社所在地ベースの調査)
・地域区分別の女性役員比率は下記のとおりである。関東はやや女性役員の就任率が高い印象である。(図表5)
6.社外役員(※8)の兼務状況(※9)(兼務先企業はプライム&スタンダード市場)
・女性の社外役員は、男性に比べて兼務比率が高い。需要に対して人材の供給が少ないことがうかがえる。(図表6)
7.業種別の女性社内・社外役員の任用バランス
・図表7では縦軸に社内役員に占める女性役員の割合、横軸に社外役員に占める女性役員の割合を置き、それぞれの平均を軸に4象限に区分した。社内役員と社外役員の任用バランスに特徴が見て取れる。当該分析は下記のようなセミマクロではなく特定個社とそのピアグループの比較(ミクロ)に適しているが参考までに掲載した。(図表7)
【付記】
・今後は政府方針(男女共同参画推進本部『女性活躍・男女共同参画の重点方針2023』(令和6年6月13日)を受けて2030年に女性役員比率30%目標を達成すべく、女性役員の任用が急速に進むことが予想される。役員総数を増やし難いなかで、男性役員との交代、男性中心の社内役員の員数を減少させるなどの構造改革により、女性役員数が増加していくフェーズが本格化する。逆に、社外役員のジェンダーバランスが女性に偏り過ぎても良くないことから、社内・社外役員の全体構成を俯瞰しながら進めていく必要がある。
・各企業のとるべき施策として「社内役員候補者の層を厚くすること」「社外役員候補者の発掘に注力すること」に加えて「安心して引き受けてもらえる処遇および環境整備を推進すること」が重要であると考える。
(※1) 2024年7月1日時点の有価証券報告書をソース とし、有価証券報告書記載の4【コーポレートガバナンスの状況等】(2)【役員の状況】①役員一覧、に記載の役員を整理・集計した。なお、特別の記載がない限り、人数は重複した人数も含めた総合計(延べ人数)である。7月1日時点で有価証券報告書の提出を延期している企業は分析から除外した。
(※2) 2023年4月1日~2024年3月31日に上場企業として決算を行ったEDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)提出のプライム&スタンダード市場の計3, 231社を分析対象とした。
(※3) 本稿において社内役員は、社内取締役(監査等委員を含む)と社内監査役を指す。指名委員会等設置会社において非取締役の執行役は除く。なお執行役を含んだ集計・分析は別途実施済み。
(※4) 本稿において社外役員は、社外取締役(監査等委員を含む)と社外監査役を指す。
(※5) 共同社長制を採用している会社があるため、調査対象の上場企業数と社長人数は一致しない。
(※6) 職業背景(コアコンピタンス_バックグラウンド)を特定する方法は発展途上であり、今後精度を高めていくことが求められる。
(※7) 「役員全体、社内役員、社外役員の各合計値」に対する「女性役員合計値」の比率。
(※8) 前回調査は全役員を母集団として調査したが、今回は社外役員を母集団とした。
(※9) 兼務関係を集計する方法は発展途上であり、今後精度を高めていくことが求められる。有価証券報告書における一定程度の記載ミス等は日本総研で判定して修正しているが、例えば漢字体の違いや、旧姓の入れ方、ミドルネームの使用の有無、片仮名表記とアルファベット表記の違いなどアルゴリズムでペアリング判定できないものがある。もしできる方がいればご連絡をお願いしたく。
以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。