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アジア・マンスリー 2024年9月号

力不足な中国の経済構造改革プラン

2024年08月28日 佐野淳也


中国の三中全会で打ち出された経済構造改革プランは、脱不動産依存で方向性が示されたものの、成長力強化への取り組み姿勢が明確ではなく、期待外れの内容に終わった。

■三中全会が開催
中国では7月半ばに三中全会が開催された。三中全会とは、中国共産党の中央委員会第3回全体会議の略称であり、中長期の経済構造改革プランを打ち出す会議として位置付けられている。三中全会は、これまでも中国の経済運営を方向付けてきた重要な会議であり、注目度が高いイベントである。今回は、「改革をいっそう全面的に深化させ、中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定」という経済構造改革プランが採択された。

■中国経済が抱える三つの課題
中国政府が取り組むべき課題は数多くあるが、現在の5カ年計画の原案公表時に掲げられた「経済規模を2035年までに2倍」にするには、次の三つの課題の克服が重要と考えられる。

第1に、不動産依存からの脱却である。中国経済に占める不動産関連のシェアは約3割とされ、長らく経済成長をけん引してきた。しかし、中国では、不動産に依存した経済成長は持続性に欠けると考えられる。その背景として、足元の住宅不況という短期的な側面に加えて、より中長期的には中国の不動産市場が人口減少と地方財政の悪化という二つの構造的な問題に直面していることが挙げられる。

人口の面では、住宅の一次取得層の中心である30 歳前後の人口はすでにピークを越えており、今後も減少が続く見通しである。こうした人口減少に連動して、住宅需要も長期の減少トレンドに入っている。また、地方財政の面では、土地使用権の譲渡収入(土地販売収入)が地方政府の重要な歳入源となっているため、不動産市場の動向が地方財政に及ぼす影響が大きいという問題を抱えている。不動産価格が持続的に上昇している間は財政運営上の問題は表面化しないものの、不動産価格がいったん下落に転じた現在のような状況下では、地方財政の持続性を低下させ、増税やインフラ整備の中止などを通じて景気に悪影響を及ぼすことになる。  

第2に、消費主導型成長への転換である。2000 年代の中国の急速な経済発展は投資・輸出主導であった。この成長パターンは、中国が低所得国から脱する際には有効に機能したものの、高所得国入りには有効ではないと考えられる。実際、中国経済は、他国に比べて消費のウエートが小さい一方、投資のウエートが大きいという特徴を持つが、これは投資効率が低いことを意味しており、持続性を欠いている。中国が1人当たり所得で世界トップレベルとなり、高所得国として豊かさを享受するためには、消費主導型の経済成長への転換が望ましい。この転換には、家計の消費意欲を高める政策が不可欠と考えられる。

第3に、若年失業問題の解決である。中国の若年失業率は、他国に比べて極めて高い。この背景として、大学新卒者が希望する雇用機会の不足、政府による成長企業への過度な介入、旧態依然とした雇用・給与慣行などが指摘されている。若年層の失業者の増加は、中長期的に二つの構造問題をもたらす。一つ目は、若年期のキャリア形成に失敗することで人的資本の蓄積が阻害されることである。二つ目は、経済的な困窮から結婚件数が減少し、少子化を加速させることである。その結果、労働の質・量の両面から、潜在成長率が押し下げられる。

■力不足な構造改革プラン
中国経済の課題を踏まえると、今回の三中全会で示された経済構造改革プランで評価できる項目は少なく、総じて期待外れな内容といえる。

まず、評価できる点として、不動産問題への対応が挙げられる。不動産不況を一気に解消することは難しいため、金融システム全体に影響が及ぶような危機的な状況に陥ることを回避しながら、時間をかけて問題のある企業や金融機関を整理していく方針は妥当と考えられる。また、従来すべて中央税収となっていた消費税を今後は地方税収に段階的に移管する方針も示されており、この点は地方財政を立て直すうえで有用といえる。

一方、消費の喚起に関しては、「消費拡大につながる長期的かつ効果的な仕組みを整備」するという方針は示されたものの、ほぼ一般論に終始しており、これを実現するための具体策には触れられていない。そのため、これによって国民の将来不安を軽減し、消費の持続的な拡大につながるという展開は想定しにくい。さらに、若年層の失業問題に関しても、就業の促進に正面から取り組もうとする政策意思は、今回の改革プランから読み取りがたいのが実状である。

このように、今回の三中全会で示された経済構造改革プランは、中長期の持続的成長に資する政策に乏しく、むしろ、国家主導によるイノベーションの加速やハイテク産業の振興など、政府が取り組みやすい供給側の施策に偏っている面が否めない。そのため、消費低迷と若年失業という二つの問題が中長期的な足かせとなり、成長率が低下していくことが懸念される。


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