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「モノマテリアルファッション」は流行るか 
ー繊維 to 繊維リサイクルの未来に向けて

2024年08月27日 南かのん


 私たちは毎シーズン、沢山の服を購入する。近年はウルトラファストファッションなどの激安通販の台頭により、「ネットで見た写真とニュアンスが違う」「実際に着てみるとしっくりこない」などの理由で一度も袖を通すことなく捨てられる服もある。日本における手放される服の量は、年間69.6万トン(2022年)(※1)にのぼる。これはワイシャツ(200 g)に換算すると、34.8億枚分である。2022年度の調査によると、服を手放すとき、その10%が古着として販売・譲渡・寄付され、22%が地域・店頭で資源・古着として回収され、68%が可燃ごみ、不燃ごみとして廃棄されている。(※2)
 
 服を大量に購入しては廃棄している一方で、日本の衣料自給率(原料ベース)は0%に近い。現在の主たる繊維である綿、羊毛、化学繊維に関して、日本の綿花栽培は衰退し、優れた毛質を持つメリノ種の羊は日本の気候に合わず、化学繊維の元となる石油は輸入に頼るしかない状況だ。すでに市場に出回っている服を再生することは、自給率向上の有望な一手となり得る。
 経済産業省は、繊維製品から新たなリサイクル繊維を作る「繊維to繊維」のために、2030年までに5万トンの服の回収を行うことを目標として掲げている。これは手放される服の7%程度に当たる。回収量だけを見ると実現不可能な値には見えない。しかし繊維to繊維リサイクル率は、世界でみても1%に満たない。(※3)
 5万トンの服を繊維to繊維リサイクルさせるという目標は、単純に、回収ボックスを増やして回収量を増やすだけでは達成を期待できない。なぜなら、リサイクルして製造した服をまた販売するというループをつなげる必要があるからで、そこには技術的課題と、消費者意識における課題がある。これらの2点について考えたい。

 技術的課題の1つは、繊維製品の複合素材化が進んでいることである。例えば綿とポリエステルを混ぜ合わせて紡績(混紡)した糸から作られた服は、分離させることが困難である。単一素材(モノマテリアル)のリサイクル技術は確立されつつあるが、1000 kgの服を回収したところ、綿100%素材の服は17.2%、ポリエステル100%の服は10.3%だった一方で、2種類以上の繊維を含む服は64.7%を占めているという報告(※4)があり、リサイクルに向いたモノマテリアル製品の少なさがうかがえる。
 また、異素材が組み合わさった服(綿100%のシャツに化学繊維のチュールが縫い付けられている等)や、ボタンやファスナーなどの付属品がある服も多い。つまり、服を回収できたとしても、人の手によってひとつひとつ外す必要があり、膨大な手間とリサイクルコストを要する。

 消費者意識においては、まず服のサステナビリティに関する関心を高める必要がある。
筆者はサステナビリティをテーマに、大学生に対して講義を行っている。講義の中で、「衣料自給率は原料ベースで何%程度であると思うか?」と学生に質問をしてみた。100名以上いる学生のうち、正解である0%の選択肢を選んだ人は片手で数えられる程度であった。多くの消費者は自分たちが着ている服が何からできていて、どこで作られているのか、資源の流れに無関心である。

 人々が服の素材に関心を持ち、服のリサイクルが生活の一部になれば、綿100%やポリエステル100%などの単一素材からできた服「モノマテリアルファッション」が格好良いものとして認識されるかもしれない。ペットボトルのキャップやラベルを外してから回収に出すように、ボタンやファスナーを切り取ってからリサイクルに出す習慣が当たり前になるかもしれない。「服は資源である」という認識が広がれば、廃棄するのではなく、回収に出す人が増えるかもしれない。
 そのような未来において、繊維to繊維のループを閉じるというハードルは今よりも下がるだろう。日本は服のリサイクル大国になる可能性がある。リサイクル技術の開発と並行して、消費者の意識醸成をサプライチェーン一体で進めていくことが求められている。


(※1)株式会社矢野経済研究所「環境省 令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務」(2023年3月)
(※2) 環境省_サステナブルファッション
(※3)国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 「第1回繊維製品の資源循環システムの検討会 繊維製品の資源循環システムの構築に向けた技術開発について」(2023年1月)
(※4) 第2回 繊維製品における資源循環システム検討会 資料3(2023年2月)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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