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リサーチ・フォーカス No.2024-026

ペートンタン政権発足後のタイ政治・経済の行方

2024年08月20日 熊谷章太郎


2024 年8月、閣僚人事を巡る問題に対する憲法裁判所の判決を受けてセター首相が失職した。これを受けて実施された首相指名選挙の結果、タイ貢献党の党首でタクシン元首相の次女のペートンタン氏が首相に選出された。以下を踏まえると、新政権を取り巻く政治・経済環境は極めて厳しいと見込まれる。

政治についてみると、①連立政権の政権基盤が脆弱であること、②王室改革や上院の選挙制度改革を巡り深刻化した政治・社会の分断の解消は容易には進まないこと、③経済格差(所得・資産格差、地域間・産業間の生産性格差)や汚職問題など、2000 年代以降続いている政治対立の火種も解消されていないこと、などを理由に、不安定化リスクが懸念される。政治の安定性の欠如は、予算執行の遅れや経済改革の遅れを通じて実体経済に下押し圧力をもたらすと見込まれる。

さらに、①高水準の家計債務が耐久財消費や投資の重石となり続けること、②主力輸出品であるHDD(ハードディスクドライブ)への世界需要の減少が続くこと、③ガソリン車から現地調達率の低いEV(電気自動車)へのシフトが続くこと、③中国からの訪タイ旅行者の回復ペースが緩慢なものにとどまること、などを踏まえると、当面、景気の力強い回復は期待できない。

タイは日本にとって中国に次ぐアジア新興国の製造業の重要拠点であるが、今回の政権交代を機に、既に兆しが見える日本企業のタイ離れとそれに伴うタイ経済の低迷という悪循環に陥るリスクが高まっている。

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