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リサーチ・フォーカス No.2024-025

地方における宿泊税導入の現状と課題

2024年08月19日 高坂晶子


わが国の観光がコロナ禍から順調に再興するなか、地域の観光施策の財源として法定外地方税に着目する自治体が増えている。その多くは宿泊行為に課税する宿泊税で、2024 年 8 月現在、すでに宿泊税制度を導入している自治体は 13(施行予定を含む)、創設を検討中の自治体は道県と市町村を合わせて 50 を超える。

各地の議論から、主な論点として以下を指摘できる。第 1 は課税の仕組みで、①定率制か定額制か、②定額制の場合、一律の税額か、宿泊料に応じて税額を引き上げる段階的定額制か、が議論となる。現状、わが国の主流は、宿泊客や事業者への配慮を優先して税額を抑えた定額制であるが、近年の宿泊料上昇を受け、税額を高くした区分を設けるケースが増えている。しかし、こうした段階的課税は、定額制本来の簡素な仕組みを損ないかねない。むしろ、物価上昇を始めとする事業環境の変化に機動的に対応できる定率制の採用を、真剣に検討すべきであろう。

第 2 は、自治体間の関係である。都道府県と市町村が同一市町村で宿泊税を徴収することは制度的に可能であるが、主体間の税額調整や役割分担は必要である。2020年から宿泊税を導入している福岡県の場合、独自の宿泊税を課している福岡市、北九州市については県税を減額し、全県で共通の税額としている。また、県と市は各自の指針に沿って宿泊税の投入分野や使途を定めており、地理的条件や組織特性、経済・社会環境を踏まえた役割分担が目指されている。

第 3 は、事業関係者の動向である。従来、観光事業者の大半は来訪者の減少を懸念して宿泊税に反対してきたが、近年、宿泊税に賛成したり、導入を要望する事業者が散見される。背景として、観光資源開発費やオーバーツーリズム対策費の必要性の高まりがあり、宿泊税を導入し観光振興予算の充実を図ることが得策と考える事業者が増えているとみられる。自治体は厳しい財政状況と宿泊税の活用のあり方をわかりやすく説明し、地元の合意形成を円滑に進めることが望まれる。

今後の留意点としては、①宿泊税の使途を観光振興に限定し、流用を防ぐ仕組みを作る、②コロナ禍のような危機に対処するため、宿泊税の一部をプールして基金を設ける、③自治体の創意工夫が最大限活かせる制度設計を考える、が重要である。

地方の観光振興が政策課題となるなか、自治体の独自財源である宿泊税の重要度は増している。すでに手続き面のハードルは下がりつつあり、今後は、地域全体にとって望ましい観光を実現するため,宿泊税をいかに活用するかが問われる。自治体は地域の観光の将来像を描き、実現に向けたステップを構想することが宿泊税を導入する前提となろう。

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