JRIレビュー Vol.7,No.118 アジア経済見通し 2024年06月27日 野木森稔、佐野淳也アジア景気は、中国とそれ以外の国・地域(その他アジア)で明暗が分かれることが予想される。中国では、住宅市場の悪化や消費マインドの停滞により景気減速は避けられそうにない。一方、その他アジアは、①IT関連需要の増加、②中国からの生産移転、③利下げ開始、を追い風に景気は引き続き回復する見通しである。とくに、輸出依存度の高い台湾、韓国、ベトナム、タイ、マレーシアが成長率を高める展開が見込まれる。今秋の米大統領選挙でトランプ氏が再選される場合、経済がかく乱される恐れがある。トランプ氏は、対中関税60%への引き上げを公約とするなど中国に対する強硬姿勢を示している。同氏が主張する政策が実行された場合、中国の成長率は▲1%超下振れる可能性がある。一方、その他アジア経済は、中国からの生産拠点の移転などを通じてプラス効果を享受する見込みである。ただし、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏は、その他アジアに対しても貿易不均衡などについて批判を強める可能性がある。また、アメリカとの直接取引が困難化した中国企業によるその他アジアへの投資は急速に増加している。これがそれら諸国の中国依存度を高め、結果としてアメリカとの軋轢を強める可能性がある。中国とともにその他アジアにも何らかの制裁が課されることになれば、アジア全体の景気が悪化する可能性がある。中国では、経済対策の効果も限られ、景気は再び減速する見込みである。2024年の実質GDP成長率は前年比+4.7%と、5%の政府目標を下回ると予想される。不動産不況が一段と深刻化するほか、アメリカによる対中圧力が強まる場合、景気が後退するリスクもある。インドでは、サービス業を中心とした景気拡大が続き、2024年度の成長率は前年比+7.8%と高い伸びになると予想される。ただし、政治面のリスクが高まるなか、高成長の持続に不可欠となる製造業の発展に向けた政策運営においては、依然として多くの課題がある。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)