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システム思考で考える過疎地域と“修理”の関係性

2024年07月09日 大原慶久


 先日、外出先で交通系ICカードが使えなくなった。問い合わせてみると、一体化しているクレジットカード機能部分の磁気エラーのためカードを交換発行する必要があり、発行作業期間中は手持ちのカードは使用できないとのことだった。
 私が普段使用する公共交通機関では使用できるキャッシュレス決済はICカードまたはモバイルアプリでの決済のみで、私はモバイルアプリを使用していないため久々に紙の切符を買うことになった。不便さを感じ交通系ICを新たに発行できないか確認したが、昨年来より新規の交通系ICの発行を一時停止しているため新規の入手は出来ず、再発行を待つことにした。待っている間はICカードを使用できない不便さを感じ、外出や移動へのモチベーションが下がってしまった。そのため、改めてモバイルアプリ決済や予備のICカード保有のような決済手段を冗長化する必要性を感じた。
 ITシステム分野では、情報システムやデータが必要な時に利用可能である状態を「可用性」と呼び、稼働率に置き換えて表現されることも多い。一般的には、可用性は稼働率であるので出来るだけ100%に近づくことが良いとされており、そのために予備システムを用意し冗長化で対策する。また似たような言葉で「信頼性」と呼ぶ場合は平均連続稼働可能時間や平均故障間隔で表現することもある。上記のICカードに関して考えると4年近く使用してきた中で停止していた期間が10日ほどであったから可用性は99%を超える素晴らしいシステムではあるが、他方で不便や不具合を感じたのは停止していた10日間が主な要因であることから信頼性を表現するためには平均復旧時間(MTTR)が適切だ。

 昨年取り組んだ過疎地域での交通の検討の中では、過疎地域での運転手不足や不採算を理由に今まで地域の交通を担っていた交通事業者が便数の縮小や系統の廃止を進める中で、地域住民のための交通・モビリティ活用をどのようにリデザインするかが議論になっていた。交通事業の事業環境が悪化する中で、地域住民の足である交通インフラをどのように維持、整備を行うかが焦点であり、地域の事情にあわせたうえで地域住民の手で管理・維持可能な形態にするかの議論が続いた。その中で、使用する車両は故障が出来るだけ発生しない車両が望ましいし、故障した際は出来るだけ早く正常化できるものでないと地域へのリスクが高いという発言が参加者より出された。これは車両に対する可用性についての言及で、過疎地域では都市部に比べて部品供給や技術者の派遣に日数を要することが多くダウンタイムが長引く傾向が強く、都市部よりもダウンタイムに対する重要性が高い。過疎地域の前提として人手不足や予算に余裕のない状況であり単純に予備の車両や人員を確保することは大変に難しい。
 情報システムを参考に考えると、計画通りの運行を行うための高い可用性が必要だが、予備車両や予備人員といった冗長性の担保は比較的難しく、そもそも車両が壊れにくく信頼性の高い車両が良いということになる。その上で私がICカードのトラブルで感じたように、故障して交通インフラが機能しない時間が長いことが不便さを感じる大きな原因になるのであれば復旧までの時間を短くしMTTRを小さくする必要がある。したがって、車両の修理性を高めることやダウンタイムを最小化するオペレーションの実現が求められる。このような問題に対して、運行する車両であることから建機メーカを始めとしてPCベンダや家電においては、翌日・翌朝修理のようなハイグレードな対応が実施されているが、IT活用やサービスネットワーク、迅速な部品供給網の構築、修理人材育成などの環境整備が前提となっている。過疎地域では上記のようなオペレーションを一挙に担う企業や団体が少なく、これらのリッチな環境をそのまま過疎地域で実現することは難しい。
 したがって、行政や地元企業、関連企業と連携を行い適切な車両運行管理体制の整備、また地域事情に合った物流や人員手配の現実を踏まえること、サポート体制が手厚くコミュニケーション可能な製造者の車両を選ぶなど、都市部とは事情が違う地域社会の許容リスクに応じたモビリティ活用の全体像の策定を進める必要がある。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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