中国グリーン金融月報【2024年5月号】をお届けします。
1.王の視点
中国、企業に気候情報の開示を義務付ける方向へ
グリーン金融、トランジションファイナンスを進めるうえで、情報開示の義務化は最も重要な施策です。
今年に入って、中国人民銀行、上海・北京・深圳の各証券取引所、財政部が相次いで、企業のサステナビリティ情報開示を強化する文書を打ち出しました。4月10日に人民銀行が「グリーンおよび低炭素発展への金融支援のさらなる強化に関する指導意見」(下記「指導意見」という)を、4月12日に上海・深圳・北京の各証券取引所が「上場企業サステナビリティ報告書に関するガイドライン」(下記「ガイドライン」という)を、さらに5月22日に財政部が「企業の持続可能な情報開示ガイドライン-基本準則(パブコメ)」(下記「基本準則」という)を公表しました。上場企業のみならず中国国内の全企業に開示主体を拡大し、自主開示から半強制あるいは強制開示へ方針転換を図る内容です。今後、上場企業だけでなく、中小企業も含めこのような流れを踏まえて、対応しなければなりません。
具体的に、上述した3つの文書の位置づけ、対象となる主体は、下記のように整理できます。
まず、施策の位置づけを見ると、人民銀行の指導意見は、グリーン金融を発展させるための全般的な施策であり、うち、「気候変動関連の情報開示の強化」という項目を取り出し、規制の対象は金融機関がメインであるものの、融資先の企業の情報開示を重視しなければならないと強調しました。証券取引所が作成したガイドラインは、上場企業を対象としており、開示項目などを細かく規定しています。財政部が作成した基本準則は、将来的に中国国内で登録するすべての企業を対象としている施策であり、証券取引所のガイドラインよりも上位の位置づけだと言えるでしょう。
次に、詳細性についてですが、財政部の基本準則は、基本的な枠組みを明確にするにとどまり、どのような項目を開示すべきか、今後、作成する詳細基準で定める予定です。証券取引所が作成したガイドラインでは開示内容と開示様式が細かく規定されており、に義務化の対象となる上場企業(主要指数構成銘柄(※1)や海外同時上場企業)はそれに従わなければなりません。その他の上場企業には、開示を奨励するものの、義務化の対象とはしませんでした。財政部の基本準則はISSBの基準に基づき、開示内容を今後明確にするとし、今現在は詳細が明確化されていません。財務部は2027年より徐々に開示の義務化をスタートするとし、中小企業に十分な準備期間を確保しようとしています。
こうした気候変動関連の情報開示強化は、企業にとって次のような影響を意味するといえるでしょう。
一つ目は、情報開示が定性的なものから定量的なものに変化することです。これまで環境関連の取り組みについて、非上場企業は定性的な内容を開示しておけばよく、コンサルティング会社に委託して開示資料を作成してもらう例も少なからずありました。今後このような対応が難しくなり、自社の日頃の業務運営において、データの利用、点検、蓄積、管理を実施する必要が生まれるでしょう。社内でデータ関連の管理体制を整備する必要も生まれます。
二つ目は、開示する情報の質に関して、これまで以上に高いものが求めらることになります。情報開示の厳格化と統一基準化を通じて、ステークホルダーや資本市場から企業価値を評価するツールも普及するでしょう。気候変動関連のデータ開示だけではなく、会社の理念、意思決定、管理体制についても言及する必要が生まれ、企業は管理レベル、ガバナンスを向上させなければなりません。
三つ目は、人材の育成が急務になるということです。上述の通り、これまでは外部のコンサルティング会社の力を借りれば報告書の作成ができたわけですが、今後は企業の中で専任のチーム体制を整える必要があり、中小企業や民営企業にとってはコスト面の負担も新たに生じることになるでしょう。
2.今月のトピックス
【財政部等】企業の持続可能な情報開示ガイドライン-基本準則(パブコメ)
基本準則パブコメ版では、策定の目的、適用範囲、開示の目的、重要性の基準、構成及び一部の技術的要件が、中国の実情に基づいて定められている。一方で、国際基準を積極的に活用する視点も導入されている。国際基準(ISSBが公表したS1/S2)の中国における適用可能性評価の結論によれば、国際基準の要求事項のほとんどが中国でも適用可能である。S1が一般的な持続可能な情報開示の基本原則を規定しており、具体的な項目に関する詳細な要求事項を定めていないことを踏まえると、基本準則パブコメ版は、情報の質の特徴、開示要素、関連する開示要求事項の点で、S1と概ね一致している。このような制度構築は、具体的な基準の策定と実施に資するだけでなく、中国の持続可能性開示基準の国際基準への接近を促進する。基本準則パブコメ版は、6章33条から構成されている。
2024-5-22 財政部
http://kjs.mof.gov.cn/gongzuotongzhi/202405/t20240527_3935674.htm
コメント:2021年11月にIFRSがISSBを発足させ、2022年4月には財政部がIFRS作成したS1/S2について中国国内でパブコメを募りました。同じ2022年にISSBが4名理事を任命する際、中国財政部の高官も理事に就任することになり、2022年12月にIFRS北京駐在事務所が新設されました。2021年以後、財政部をはじめとする中国の金融関連機関が中国でのサステナビリティ情報開示の在り方と国際基準の中国での適用性について議論を行い、適用可能との結論を導いています。今回の基本準則(パブコメ)は、こうした経緯のもとで作成されました。今回のパブコメの内容は、ISSBのS1に沿っている部分とともに、中国独自の内容も盛り込まれました。ただ、中国は国際基準に協調するような傾向を見て取れます。企業のサステナビリティ情報開示準則は、基本基準、具体基準、応用ガイドラインという3つの内容で構成され、今回が公表されたのは基本準則です。基本準則を踏まえ、今後具体基準(産業別の基準など)と応用基準が作られ、2030年までに中国で登録されるすべての企業が情報開示を実現するとの目標になっています。中国は、サステナビリティ情報開示が自主開示から強制開示に舵を切ることになります。基本準則パブコメ版では、策定の目的、適用範囲、開示の目的、重要性の基準、構成及び一部の技術的要件が、中国の実情に基づいて定められている。一方で、国際基準を積極的に活用する視点も導入されている。国際基準(ISSBが公表したS1/S2)の中国における適用可能性評価の結論によれば、国際基準の要求事項のほとんどが中国でも適用可能である。S1が一般的な持続可能な情報開示の基本原則を規定しており、具体的な項目に関する詳細な要求事項を定めていないことを踏まえると、基本準則パブコメ版は、情報の質の特徴、開示要素、関連する開示要求事項の点で、S1と概ね一致している。このような制度構築は、具体的な基準の策定と実施に資するだけでなく、中国の持続可能性開示基準の国際基準への接近を促進する。基本準則パブコメ版は、6章33条から構成されている。
2024-5-22 財政部
http://kjs.mof.gov.cn/gongzuotongzhi/202405/t20240527_3935674.htm

【生態環境部】「カーボンフットプリント管理システム構築に関する実施計画」を公表
5月29日に、生態環境部報道官が記者会見で、カーボンフットプリントの管理を強化するため、生態環境部が「カーボンフットプリント管理システム構築に関する実施計画」を作成し、近日中に他の省庁と共同で発表し、標準化されたカーボンフットプリント管理システムを構築すると発言した。次のステップとして、生態環境部は、電力、石炭、石油などの主要製品のカーボンフットプリント算定方法とカーボンフットプリント係数の研究・公表を加速し、川下製品のライフサイクル全体のカーボンフットプリント算定作業に堅実な基礎を提供し、全方位、全プロセスでのカーボンフットプリント算定作業を推進するという。
2024-5-29 中国政府網
https://www.gov.cn/lianbo/bumen/202405/content_6954390.htm
全文は下記に掲載される。
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202406/P020240607483431952726.pdf
コメント:中国政府の計画では、今後約100の主要製品のカーボンフットプリント算定規則と基準を策定し、製品カーボンフットプリント係数データベースを構築し、製品のカーボンフットプリントを表示するとしています。業界団体もカーボンフットプリントを推し進めることに協力的です。中国政府は、カーボンフットポイントの制度整備を通じ、低炭素消費と低炭素生産という新たなグリーン循環市場メカニズムを生み出そうと企図しています。5月29日に、生態環境部報道官が記者会見で、カーボンフットプリントの管理を強化するため、生態環境部が「カーボンフットプリント管理システム構築に関する実施計画」を作成し、近日中に他の省庁と共同で発表し、標準化されたカーボンフットプリント管理システムを構築すると発言した。次のステップとして、生態環境部は、電力、石炭、石油などの主要製品のカーボンフットプリント算定方法とカーボンフットプリント係数の研究・公表を加速し、川下製品のライフサイクル全体のカーボンフットプリント算定作業に堅実な基礎を提供し、全方位、全プロセスでのカーボンフットプリント算定作業を推進するという。
2024-5-29 中国政府網
https://www.gov.cn/lianbo/bumen/202405/content_6954390.htm

全文は下記に掲載される。
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202406/P020240607483431952726.pdf

3.今月のニュース
【生態環境部】気候に関する中米協議:双方は関連技術協力を発展させる
5月8日から9日にかけて、ワシントンD.C.で、2120年代の気候変動対策強化に関する中米作業部会が開催。エネルギー転換、メタンやその他の二酸化炭素以外の温室効果ガス、循環経済と資源効率、森林破壊などが話題となった。
2024-5‐8 SOHUニュース
http://news.sohu.com/a/777118678_114911

【生態環境部・国家金融監督総局】「気候に配慮した銀行・金融機関2023」が正式発表
2019年に作成された「気候に配慮した金融機関評価のためのガイドライン (T/CSTE0289-202)」に基づき、広州銀行、桂林銀行、北京銀行、光大銀行、恒豊銀行、興業銀行の6行が選ばれた。
2024-5‐13 21世紀財経
https://www.21jingji.com/article/20240513/herald/2d4191d48f1e3a96b38cfc4accfcf8d3.html

【中国科学院】「消費者側炭素排出研究報告(2024年)」を発表
消費サイドの視点に基づく世界の炭素排出量に関する最新の研究結果。1990年から2019年までの主要先進国および途上国における世界の消費サイドの炭素排出量の変遷的特徴を分析し、代表的な製品について貿易による炭素移転の効果を評価している。
2024-5‐30 中国科学院
https://www.cas.cn/sygz/202405/t20240529_5016076.shtml

【香港】中国・EU共通分類カタログを参考に持続可能な金融分類カタログを導入
香港金融局が公表したカタログの現行版は、発電、運輸、建設、下水・廃棄物処理という4つの分野の12の経済活動をカバーしている。
2024-5‐19 グリーン金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4298

【工商銀行】「カーボン・ニュートラル」をテーマとするオフショア・グリーンボンドをマルチカレンシー発行
発行規模は17.4億米ドル相当。今回の債券発行により、ICBC は BRBR メカニズムの中国および海外のパートナーと手を携え、「一帯一路」建設における各国・地域の発展に貢献するため、強力な金融支援を提供する。
2024-5‐20 中国証券網
https://finance.eastmoney.com/a/202405203081490477.html

(※1) 中証180、科創50、深証100、GEMインデックスに組み入れられる企業で。現在のところ458社がその対象。
連載終了のご挨拶:
2021年9月に、この連載を開始し、間もなく丸3年になろうとしています。新型コロナウイル感染症の影響で、日中間行き来が困難となるなか、刻一刻と進展する中国の脱炭素・グリーン金融に関する取り組みを、少しでも知っていただきたいと、連載を始めました。パンデミックが終息し、日中間の往来が回復するようになり、情報収集のハードルも徐々に小さくなってきました。このため、本連載も一旦休止にしたいと思います。この間、目を通してくださった読者の方には御礼を申し上げます。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。