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JRIレビュー Vol.5,No.116

消費者の行動変容を促す個人カーボンアカウント制度構築の試み

2024年06月06日 王婷


国連環境計画が公表した「排出ギャップ報告書2020年版」によれば、世界のCO₂排出量の約3分の2が家庭の消費活動に関係しており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も、2050年までに人々が自分の消費とライフスタイルを改善すれば、需要側において40 ~ 70%の排出削減を実現できるとした。国立環境研究所の推計によると、家計消費のカーボンフットプリントはわが国全体の約6割を占め、そのうち、住居が18%、移動、食事、消費財、レジャー、サービスが42%を占めるという。脱炭素社会、カーボンニュートラルの達成に向けて、個人のライフスタイル変容が重要であることはいうまでもない。

一方、近年の消費者意識調査レポートを見ると、日本の消費者はCO₂削減やサステナビリティに対する意識が必ずしも高いとは言えない状況にある。ピグー税や「コースの理論」など環境経済学の理論を踏まえると、「環境を悪化させる」行動を是正するにあたって、何らかの経済的インセンティブを付与することには意義がある。消費者に適切なインセンティブを与えれば、行動変容が生じるのではないかと考えられる。そのため、個人消費者の行動変容を促す制度整備の検討が必要である。

世界各国における消費者の脱炭素行動誘導策は、主に3種類に整理できる。一つ目は、イギリスや米カリフォルニア州に代表される個人の排出量取引である。二つ目は、アメリカや欧州で取り組まれている、クレジットカードやデビットカードを利用した決済データから個人の排出量を見える化し、CO₂削減に貢献した消費活動にインセンティブを与える仕組みである。三つ目は、日本と韓国に代表例がある消費者向けのポイント制度である。しかし、これらの施策は、消費者の負担が重くなったり、カバーする消費活動が限定的であったり、財政負担が重く持続できなかったりするなどの欠点があり、いずれも広く定着していない状況にある。

中国でも、消費者の脱炭素行動誘導策として、近年個人カーボンアカウントが相次いで登場した。個人カーボンアカウントとは、ビッグデータやIoT、ブロックチェーンなどの技術を駆使し、個人のCO₂排出量を記録し定量化するものである。消費者のCO₂排出の現状を把握し、価値に見合ったインセンティブを提供することにより、消費者の脱炭素への取り組みを促す狙いである。IT技術/プラットフォーム運営事業者の存在を生かした仕組み構築や、衣食住など広範囲の消費行動をカバーすることが個人カーボンアカウントの特徴である。地方政府やインターネット関連企業、金融機関などが中心となって取り組んでいる。取り組みの主体が多く、脱炭素行動基準がバラバラに存在するという課題がある。

日本でも、消費者の行動変容を促す制度整備のため、個人カーボンアカウント制度の構築に着手する好機である。個人カーボンアカウント制度の構築にあたって、重要な点は二つある。一つは脱炭素行動基準や排出削減量算定方法など各種ルールの整備であり、もう一つはプラットフォームの構築と運営である。前者は、個人カーボンアカウント制度の信頼性、実効性を担保する基礎であり、後者は、カーボンアカウントを持続的に進めるうえで重要なインフラである。個人カーボンアカウントというツールを活用して、個人、企業、プラットフォーム運営事業者、政府がWINWINになる関係を作りながら、消費者の脱炭素行動の変容を促進し、2050年のカーボンニュートラル目標の実現に寄与することが期待されている。

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