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縮小する地域のパブリックサービス提供体制 ~自治体直営への回帰か、持続的な官民協働か~
2024年06月11日 齊木大
生産年齢人口が急速に減り、地域を担うリソースが限られていく「縮小」が顕在化している。「消滅可能性自治体」が公表され耳目を集めたのも記憶に新しい。こうした縮小局面ではさまざまな課題に直面する。とりわけ、パブリックサービスの提供体制をいかにして維持していくかは大きな課題の一つだ。具体的な事例をあげるなら、自治体の業務を民間に委託して実施しているパブリックサービス、例えば福祉分野の相談事業や文化施設の管理運営などでは、サービス提供体制が先細りせざるを得ない。厳しい見通しのもとで、自治体の直営に戻すのか、あるいは何とか持続的に民間事業者と協働するのかの判断を迫られることになる。
急速な縮小を真正面から受けとめるならば、これから2040年代までの15年程度の間に、パブリックサービスの提供体制の再構築は欠かせなくなる。ここで重要なことは、将来的なサービス提供体制の方向性を見定めたうえで、どのような選択をするにしても、人づくりとナレッジマネジメントに注力することであろう。
そもそも、リソースが少ない中で一定の水準のサービスを提供するには、担当するスタッフにある程度幅広い視野と企画能力、そしてデジタル技術に代表される各種ツールを活用する知見が求められる。事業の規模が大きければ分業できるので、担当者は「自分の担当」の業務知見があれば十分だ。しかし、個々の事業の規模が小さくなると担当する範囲を増やし「多能工化」が求められることになる。ここで、単純に業務範囲を増やすだけでは、スタッフに係る負担が大きくなり過ぎる。そこで、「多能工化」だけでなく、いくつかの業務をまとめたうえで「見直す」ことが必須だ。業務を見直すことなく自動化や、省力化の技術を活用してもうまくいかないし、これからの縮小の規模は、その程度の改善で対処できるレベル感ではない。
業務の見直しを実現するポイントは2つある。第一に仕事の目的、つまりその仕事がそもそも何のために求められていたのかを理解すること、そして第二に仕事のゴール、つまりその仕事では何が実現できれば良いのかをシンプルに捉えることだ。
前者は、「担当者の視点」から目線を上げて、「一つあるいは二つ上の職位の視点」で、その仕事が何を目指していたのかを見るようにすることが大切だ。この視点を持つことで、個々の仕事の要否や優先順位を判断できる。このように目線を上げることで、後者の要点も見えてくる。担当者の目線のままでデジタル技術を導入しても効果のある省力化には繋がらないのは、多くの方に共感いただける点ではないだろうか。
このように、効果的な見直しには実務的な担当者レベルの知見と、上席者が持つ政策や施策といった幅広い視野の両方が求められる。自治体の事業を民間事業者に委託して実施している場合、これらナレッジが組織間で分断され、別々に蓄積されていることに注意を払わねばならない。
つまり、分断されたナレッジを、まず引き出して統合することが重要であり、そのうえでサービス提供を担う人にナレッジを共有し、視点を上げたり視野を広げたりする人づくりを進める必要がある。人づくりは長い時間が掛かるものだから、自治体と民間事業者にナレッジが分断していれば、人づくりのために適宜ノウハウを共有し伝える取り組みも必要になる。しかし、業務委託の相手方に対してナレッジを共有したり、さらには人づくりに協力したりといった取り組みは、ほぼ業務委託の内容には含まれない。そこで、現場で必要に迫られてナレッジ共有や人づくりを行おうとすると、業務負荷ばかりが顕在化して、「こんなことまでやっているのに、何も評価されない!」といったスタッフの不満感が蔓延するというのが現実である。
縮小が急速に進む地域において、現場のリソースが劣化していくのを見過ごす余地はどこにもないはずだ。リソースとして人こそ最も重要な資本だと見定めて、提供体制の方向性を議論し、委託元/委託先の関係を超えてナレッジを言葉にして共有する活動に着手して、組織を超えた人づくりに取り組むべきではないか。AIをはじめデジタル技術の活用が叫ばれる今こそ、目先の効率化ばかりに捉われることなく、長期を見据えた「人づくり」を前面に掲げることが、パブリックサービスの提供体制維持には必要である。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。