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発達障害がある児童・生徒のためのデジタルアート制作講座設計ガイドラインを公開

2024年05月28日 木村智行


 8.8%の小中学生が発達障害の可能性がある(※1)とされる中、日本総研では昨年度より発達障害のある子どもたちがweb3上で活躍できるという可能性について研究を重ねてきた。具体的には北海道済生会や小樽商科大学との共同研究として、発達障害のある児童・生徒を対象にしてweb3ゲームにおけるアバター・アイテムの制作講座(※2)を実施し、その効果を確認した。講座内では、子どもたちがデジタルツールの操作を大人以上のスピードで習熟し、現役のクリエイター顔負けのクオリティで作品を作るさまを目の当たりにした。実際の講座の様子や具体的な子どもの変化は以下を参考いただきたい。
 web3を活用して発達障害の特性を活かす
 この共同研究を踏まえ、2024年5月には、武蔵野美術大学や北海道済生会と共に「発達障害がある児童・生徒を主な対象としたデジタルアートの制作講座設計のためのガイドライン」を公開することができた。このガイドラインは、全国の発達支援事業所やクリエイターが実際に同様の講座を行う際の参考となるために整備したものである。
 発達障害がある児童・生徒に向けたデジタルアートの制作講座実施に関するガイドライン

 本稿では、このガイドラインの整備、公開を行った背景を、参加者・保護者からの講座に対する反応等から補足したい。
 まず、参加した子どもたちの反応についてはどうだったか。全講座後のアンケートでは参加した子どもたち全員の「楽しかった」という回答に加え、「思った通りの制作ができた」という回答も全員から得ることができた。例えば、独り言が多く人と目を合わせることが極端に苦手な子が、目を見張るほどの立体把握能力と造形力を発揮し、非常に細かな意匠のアバターを短時間で作り上げたことは大変な驚きであった。また、普段の運動や動作がぎこちないDCD(発達性協調運動障害)の診断がある子も参加しており、こうした子も含めて思った通りに制作ができたという結果は、デジタルツールを介すことで「障害が障害でなくなる」可能性を示している。
 また、保護者に対して小樽商科大学が実施したアンケートでは、製作講座を通じて「子どもに良い影響があった」と保護者全員から回答があった。同様に子どもがデジタルツールに触れることについても前向きであると全員から回答があった。一方で、実際のインターネットの利用については、トラブルに巻き込まれる懸念を保護者側が持っていることもアンケートから判明した。家庭単独での環境整備は容易ではないことがわかった。この点で、スタッフのサポートを得られる発達支援事業所でデジタルツールに触れる機会を作ることが、発達障害がある子どもたちの将来の可能性を拓くことにつながるだろうとの見通しも得た。
 そうはいっても、実際の発達支援事業所で同様の講座をゼロから企画することは容易ではない。なぜなら、デジタルアートを作ったことのない事業所スタッフがほとんどであり、既存の支援を行いつつ新たにデジタルアートのスキルを習得する余力がないのが現実であるからだ。講座の企画にあたっては、利用するソフトウェアがどのようなものか、どのようなスペックのPCを準備すればいいのか、会場やその他設備はどうしたらいいのか、講座の流れはどのようなものにすればいいのか、どのくらいのスタッフが必要かなど、検討しなければいけない事項は多岐に亘る。また、講師を担うクリエイターが発達障害のある子どもたちとの関わりに不安を感じてしまえば、講座の実施はままならない。発達障害のある子どもたちのなかには、反応が薄く関心がないようにみえる子もいたり、逆に過度に反応する子もいたりと、講師にとっては講座の進行への戸惑いになることも予想される。そこでガイドラインでは、講座運営の指針となるように発達特性ごとにどういった関わりを実践することが有効かについても言及した。
 これらは実際にデジタルアート制作講座の実施・運営を通じて得られた知見である。それらの知見を実践的なガイドラインとして取りまとめることで発達支援事業所が同様の講座に取り組みやすくなると考えている。ぜひ多くの発達支援事業所やクリエイターの目に留まり、全国で同様の講座が開かれることを期待したい。また、発達障害がある子どもを持つ保護者の方々には、日頃、利用している事業所などにぜひ本ガイドラインを紹介してほしい。こうした輪が広がることで、発達障害がある子どもたちが、デジタル技術を習得し、才能を開花させる機会が拡大していくことを確信している。

(※1)文部科学省 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査(令和4年)
(※2)・発達障がいのある人々の活躍を推進するweb3利活用の検討を開始
   ・フォーラム「web3で実装する!発達障がいと拓くありたい未来」パネルディスカッション ①web3.0ネイティブ世代が作る新たなエコノミー(YouTube)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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